じぇりー さんの感想・評価
4.3
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
音楽とギャグシーンのテンポの良さ。男たちの美しき氷上の戦い。
フィギュアスケートを題材にした本作。これを一括りにスポーツモノと呼んでいいものか少々疑問だが、一応その体で本作を見た感想をば。
まずは主人公のスタート位置が、他の多くのスポーツモノ作品と比べて大きく違う。主人公・勇利は既に世界レベルの選手であるということ。
世界の大舞台で惨敗し、傷心のまま故郷に帰省し、今後の進退について悩んでいる、いわゆる高レベルな位置からのマイナススタートで物語が始まる。
そもそもフィギュアスケートとは、立派な競技ではあるものの、やはりその華やかさや繊細さに目が行く美しきスポーツ。
ならば女子で描いてもいいものを、敢えて男子の世界にしたところが、この作品のミソとも言える。
いわゆる女子受けする要素が色々とてんこ盛りなのだ(笑)
勇利をはじめ、様々な選手達が登場する中、そのスケートシーンの動きの滑らかさ美しさと個性豊かな振付、ショート・フリーでの楽曲の数々…と制作陣の苦労と言ったらなかっただろうな、という印象。
そういったアニメーションとしてのディテールに、作り手の「こだわり」が見て取れる点も素晴らしいが、私が良いと思ったのは、そこだけではない。
先にも触れたように、この作品には世界各国の選手たちがしのぎを削る作品だ。
注目すべきは、それぞれの個性豊かなキャラクター達が氷上での演技中、モノローグで自らの思いやプログラムの持つストーリーを語る点にある。
そう、スポーツは単純に強さや技能を競うだけのものではなく、ことフィギュアスケートという「表現」の世界においては、メンタルが大きく演技に影響するのだ。
だからこそ、メンタルの弱い主人公の成長が観ていて共感と感動を起こさせてくれる。
といっても、ストーリーは熱血スポーツモノ!敵対心バチバチという訳でもなく、程よくギャグシーンも盛り込まれ、時に選手たちの個性が笑いになる点も面白い。
この物語にはもう一人のユーリも存在する。ロシア人の15歳、ユーリ・プリセツキーは、ジュニア大会で優勝を果たし、シニアデビューを控えた若手の注目株。口の悪さと強気な発言が勇利とは対照的だ。
対照的なのはキャラクターに留まらず、フィギュア選手としては過渡期とも言える23歳の勇利にとっては、恐るべき若手が台頭してきた、という格好なのである。
もう色々と、勇利は崖っぷちスケーターなのだ。第一話から目が離せない展開が待っている。
中盤以降、ストーリー構成が大会のショートとフリーで一話ずつ割かれている点も、リアルのフィギュアの大会を見ているような感覚になれる。
これは私の勝手なイメージだが、フィギュアスケートとはそもそもお金持ちのスポーツだと思っていた。
コーチ代や、衣装、遠征費など、一般庶民が始めるにはあまりにもハードルの高いスポーツだと。
だが、勇利の実家は田舎の素朴な温泉宿で、暖かい家族と地元の人々に支えられて、世界に羽ばたく選手が生まれたという点にも好感が持てる。
世界を舞台にするスケーターだが、勇利の持つバックグラウンドは限りなく、視聴者の目線に近い。
唯一つ気になった点は、スケートシーンの使い回しが多かった点と、回によっては選手の演技の動きに滑らかさが足りなかった点だ。
フィギュアスケートをアニメ化するという大きな挑戦は称えたいが、ここがどうしても気になったので作画は★4とした。
音楽は文句なしに★5である。フィギュアスケートには切っても切れない要素だが、見事に作品に命を吹き込むことに成功している。
選手一人一人の個性に合わせた素晴らしい音楽と、あとおディーン様の歌うOP曲も良い。個人的には勇利のフリーの曲が振付の美しさも相まってベストだ。
そういえば、ラジオで原案担当の久保ミツロウ氏が話していたが、{netabare}最後のグランプリファイナルでロシア人のユーリがショートプログラムで、主人公・勇利がフリーで、それぞれヴィクトルのベストを上回る点数をたたき出したが、総合得点では未だヴィクトル超えは前人未到なのだ。
そしてグランプリファイナルでの金メダルを宣言していた勇利の結末と、ヴィクトルの今後、最後に画面に残されたメッセージなど、何ともファンに期待を持たせる終わり方をしてくれた。{/netabare}
もし、勇利の物語に続きがあるのだとしたら、是非見てみたいと思える作品だった。