おぬごん さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
この作品をアニメでやる意義と、「大渡海」の特徴が伝わってこない
辞書「大渡海」の作成に携わる人々を描いた小説が原作
原作小説は本屋大賞を受賞、実写映画も日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞するなど非常に評価の高い作品のようです(ともに未読・未見)
ストーリーとしては、知られざる辞書作りのトリビアを紹介しつつ、仕事への情熱や人間関係、社内部署間での軋轢、達成感、そして恋愛など、「仕事モノ」の王道に沿った作りで確かによくできていました
決して劇的なことが起こるわけではありませんが、ノイタミナに相応しい大人なアニメだったと思います
一点特筆すべきことがあるとすれば、最終回の麦人さんの{netabare}喉の調子が悪い{/netabare}演技ですかね
ただ、わざわざこの作品をアニメにするのであれば、アニメならではの表現というのが欲しかったところです
強いて言えば幕間のゆるキャラたちによる解説と、毎回のラストでサブタイトルの「大渡海」での語釈が出ていたくらいでしょうか
上の感想では言葉を濁しましたが、アニメとしては正直退屈でした
明らかにアニメに不向きな題材をアニメ化しているんですから、それ相応の工夫を見せてほしかったものです
同じ小説原作なら(ジャンルは全然違いますが)「化物語」や「四畳半神話大系」にはそれがしっかり見て取れました
あまつさえ既に実写化済みの作品なんですから「これ実写でよくね?」と思えてしまうようではアニメ化の意味が無いのでは?
そしてこれも大きな問題点なのですが、主人公たちが作っている辞書「大渡海」の特徴が伝わってこないんですよね
作中で言及された特徴といえば「新語や俗語も多数収録したい」という点くらいだったかと思います
別作品の感想でも書きましたが、物作り系の作品の場合、登場人物たちがどういう物を作っているかが分からないと、それがどんなに大変な作業であることが描かれようと、視聴者は感情移入しにくいんですよ
例えば作中内で「大渡海」が収録して他の辞書に載っていない単語を紹介するとか、または他の辞書と説明文を比較するとか、そういった中身を見せてくれる必要があったように思います
「広辞苑」「大辞林」など他の有名な辞書は作中にも登場しゆるキャラ化されていたくらいですから、内容出すのも可能だったんじゃないかと思うんですが…難しいんですかねえ?
ところで作中何度か出てくる「『右』という言葉をどう説明するか」ですが、主人公たちが答える「北を向いたときに東側にあたる方向」は広辞苑のものです
いかにも広辞苑というような、普遍的で硬派な説明ですねw
一方他の辞書はというと、例えばユニークな語釈で有名な新明解国語辞典では「アナログ時計で1時~5時のある側」「『明』という字の『月』がある側」となっています。具体的で、子供でも分かるような説明で、また書名の一部である「明」の字を使う点も気が利いてます
また岩波国語辞典の「この辞書の偶数ページのある側」という説明もエレガントで有名です
このように同じ言葉でも辞書によって表現方法が違うわけですが、例えばこの「右」の説明の「大渡海」版を他社と比較しつつ示すだけでも、「大渡海」の特徴を印象づけることができたんじゃないでしょうか
「一般文芸の名作をアニメに!」という試み自体は素晴らしいし応援したいと思いますが、それであるならアニメならではの見せ方というものが欲しかったです
以下、難癖に近い「大渡海」への雑感
「大渡海」っていう書名、一見して辞書って分からないじゃないですか
現実の「○○辞典」形式じゃない書名の辞書は、必ず「辞」の字や「言」の字などを用いて辞書であることをアピールしてますからね
多分、書名と青く分厚い装丁だけを見たら、「航海大百科」か何かかと思ってしまうんじゃないかと思いますw
「辞書は言葉の海を渡る舟」っていう作中の思想ありきの書名なわけですけど、ぶっちゃけこの喩えもいまいちピンと来ないというか…言葉が海なら、辞書はせいぜい羅針盤か海図くらいのものだと思いますけどねえ
何というか、「大渡海」の語呂の良さも含めて、作者が自分の言葉に酔っている感を覚えてしまいました
「このタイトルじゃ売れないから名前を変えろ!」みたいな営業部からの要請、とか描かれても良かったんじゃないかと思います…というか描かれるんじゃないかと期待していました