101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
猛獣たちの帰る場所
原作コミックは未読。
先読みができない私……。
将棋、チェス、囲碁、オセロ……盤上の戦はからっきしダメw
本作にて、ニャー将棋音頭を仕掛け、視聴者の懐柔?と、
NHK教育の将棋番組への誘導を企てた?(笑)
NHKには申し訳ありませんが、私はその種の番組もほとんど観ません。
ところが、『プロフェッショナル 仕事の流儀』等のテレビ番組や雑誌インタビューで、
棋士を特集した企画等があると、つい吸い寄せられるように見入ってしまいます。
最近も将棋界の実話を基にした映画版『聖の青春』を観て感動。
ちなみに本作のキャラ設定が思い浮かぶ部分もあって面白いです。
架空の将棋界を描いた本作ですが、現実の棋士を参考にしたキャラもいるのかもしれません。
居飛車か?振り飛車か?
どっちでもいいとか以前にさっぱり分からない私ですがw
棋士という“生き物”には強く惹かれてしまいます。
それは道を極めたプロ棋士が普通の人間とは違う景色を見ている……。
その世界を私も垣間見てみたいという欲求が、
私の興味を棋士に惹き付けるのだと思います。
本作も盤上で勝負勘を研ぎ澄ませている棋士は、
感性も優れているに違いないという確信に基づいたプロ棋士像が、
背景と心象が溶け合うシャフトの作画と共に画面に再現され、
視聴者の心のアンテナを目覚めさせます。
文学的と称される漫画、アニメ作品は数多いですが、
本作の主人公少年棋士のモノローグは本当に文学的な表現だなと感じました。
特に{netabare} わだかまりを抱えた義姉の襲来と少年棋士のささくれを、
天候急変と重ねた「遠雷」のエピソードに私のハートはやられました。{/netabare}
胃がキリキリと痛む、将棋界の激しいつばぜり合いと、
家庭の愛情も失って久しい孤独な少年棋士を迎える川本家の、
手作りお味噌汁の如き温かな歓待。
北風と太陽くらいの寒暖差が印象的。
盤上では猛獣の如く闘争心を露わにする少年棋士も、
川本家の食卓では転がり込んできた新たなるニャーに過ぎないw
他人の家で実家のような安心感でとろけてしまうことに、
ある種の危機感を感じる少年棋士の心理もごもっとも。
けれど、孤独を貫き通して磨いた強さは、
一見、硬いが折れやすく、一度傷付いたら再生は難しい。
猛禽が羽根を伸ばせる場所や頼れる仲間を作ることで、
オンオフ、メリハリの利いた、
柳の如くしなやかな強さを得ることができるのではないか?
深い人生訓を示唆して、次への期待を繋いでくれました。
以前、雑誌でプロ棋士・羽生善治氏のインタビューを拝見した際、
進化し続けるコンピュータが、やがて将棋の名人を負かすのは既定路線で、
むしろその後の将棋や棋士の在り方を模索するのが面白いのだ。
との主旨の主張を拝見。
七冠制覇で勝負事としての将棋を
一度極めてしまった人間ならではの視点に感銘を受けました。
相変わらず将棋では人にもコンピュータにも全く勝てる気がしない私ですがw
この先コンピュータに人間が全く歯が立たなくなっても、
棋士という生き物……この人間的で面白過ぎる彼らの言動は見ていきたいと、
本作を観て改めて思いました。
秋からの第2シリーズ楽しみに待ってます♪
【十話感想】クリスマスと言う名の通知表
{netabare}盤上だけでなく、人間観察や心理描写の中で
"指される”少年棋士の鋭い心理分析の一手に毎回ヤラレっぱなしの私。
クリスマス回くらいニャー将棋でまったりと……。
とはいかないのが、荒海を延々と泳ぎ続けるが如き、棋界の厳しさw
離婚前、家族最後のイヴに勝って帰宅したいおっさんを、
少年が生活を賭けて叩きに行きます。
ここまで、しばしば自分より弱い年長棋士等を指し手で"殴り”、
返り血を浴びてきた少年棋士の心が悲鳴を上げる、
前半戦の一つの山場及び谷底となりました。
対局に迎う前、クリスマスを通知表に例えた少年棋士の洞察が深い。
クリスマスでは、プレゼントやパーティーに絡む人間模様を通じて、
その年の家族関係、人間関係の総決算が成される。
人との折り合いに苦しみ"赤点”を積み重ねて来た人間にとっては、
惨状を具現化されるクリスマスは有罪判決の如き苦行に違いない。
好成績を収めて来た"賢者”にとっては通知表など、
長期休暇前に解放を告げる福音。
結果にビク付く必要もない。気に留める程のものではないはず。
そんな境地にも程遠く、絶叫し、冷たい地面に突っ伏した少年棋士……。
クリスマスに苦しみを感じる彼の心の再生はまだまだ遠い……。{/netabare}