セメント さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
想う心があれば、誰にだって魔法は使える
天才ビットくんの枠で放送していたアニメですね、「おでんくん」とかと同じ部類です。
なんですけど、非常に考察の余地のあるアニメで、何度も見返して熟慮を重ねたい作品でもあります。
<物語>
1話約10分程度と短い尺の中に色々な要素が幾重にも絡み合っていて難解な様相を呈している気がします。
一つ、世界観として伝統が重んじられる魔女界と、革新が叫ばれる魔族界があり、この二つの世界は崩壊の危機(魔力の枯渇)に瀕しています。
それとは別に人間界があり、そこに住んでいた主人公のアルスはひょんな事から魔女界に転送されてしまいます。
魔女界に於いて、世界の崩壊は抗えない運命であり、座して死を待つのみの立ち位置であるのに対して、魔族界は、禁断の魔法(失敗すれば問答無用で世界崩壊)を使って人間界に経路を築き逃げ延びようと画策しています。
そして二つ、アルスが転送された魔女界、ここでは妖精の生命力が魔力の供給源として成り立っているという幻想を多くの魔女が信じ続けている、といった旧態依然とした世界として描かれています。
魔法に憧れを抱いていたアルスは、妖精を犠牲にして魔法が成り立っている魔女界に憤りを感じ、"想い"を魔力源として魔法を行使する"光の魔法"を編み出そうとします。
ところが、魔族界の暗躍もあってアルスの友人のエバの劣等感を糧とする"黒魔法"が発動されてしまいます。
ここに於いて、"黒魔法"も形は違えど"想い"を源にしており、アルスとエバが心を通わせれば"光の魔法"への転換は容易な事でした。
以前の妖精に依存した魔法体系は"光の魔法"の登場で瓦解し、斯くして世界の崩壊を免れた魔族界と魔女界は手を取り合い、魔法界として新たな歩みを進めるのです。
閉塞感すら覚える窮屈な魔女界に新たな息吹を齎したのは紛れもなくアルスなのでしょう、最終的にアルスは人間界に帰ることになるのですが、気持ちの良い締め方だったと思えます。
大まかな話の流れはこんな感じなのかと思うのですが、もしかしたら所々図り違えている箇所があるかもしれません。
これだけでも大変な設定なのですが、ここにアルスの家族の要素が絡んでくるといよいよ混沌の域に達してしまいます。
最初お母さんだと思っていた人が実は伯母さんでっていう、なかなか複雑な家庭事情をお持ちのようで、これも細かく読み解いていけばアルスの主人公像が見えてくるのでしょうけど、まだそこまで到達できていません。
<作画>
「マインドゲーム」や「ハーモニー」といったコアな支持層を保持するSTUDIO 4℃の制作です。
原案は「牙狼」で有名な雨宮慶太さん、保守派の魔女界と革新派の魔族界の対立、そしてアルスが示した突破口は現代社会の風刺とも見て取れ、よもや子供向けの時間にこれだけ思想の詰まった作品を放送しようとする度胸に恐れ入ります。
そして只の魔法少女アニメに留まらせない異質さを引き延ばしている作画と美術の役割も捨て置けません。
ともすると作画崩壊と取れるような外連味溢れる躍動感と、異世界の幻想的な雰囲気が、見事な調和を生み出しています。
新作の発表が成されたスタッフトークショーでは、意図的に演出過多にしてアニメとしての面白さを追求したというような話もあるように、挑戦的な様子が見受けられて好印象でした。
<声優>
アルス役の小島幸子さんは、少し舌足らずな面もあるんですけど、そこがまた絶妙に合っていたように思えます。
小島さんは昔はそれこそ「電脳コイル」や「バンブーブレード」で大活躍でしたけど、最近は滅法聞かないと思って調べてみたら、案外出演されてて驚きです。
後は桑島法子さんと広橋涼さんですか、取り分けエバ役の広橋さんは完全に降りて来てるとしか思えない名采配でしたね。
<音楽>
本作の主題歌がKOTOKOさんの「覚えてていいよ」のカップリングの「DuDiDuWa*lalala」であることって案外知られてない気がしますね。
これがまた最強に良い曲で、個人的に大体どれも素晴らしいKOTOKOさんの曲の中でも上位にランクインします。
急にテンポが変わり出すあたりからアウトロの"We'are laughing always"までが本当に好き過ぎて、何度聞いた分かりませんね。
ちなみにサントラの方は入手困難で有名です。
<キャラ>
アルス、シーラ、エバは3人とも大好きです。
アルスのスケートボードのように箒を乗りこなすの格好良いですよね。
ヒトニヤサシク(11028349)は炎の呪文、オイシイクロミツイチゴ(0141963215)は幻影呪文、ヤマゴヤハイレグロックンロール(80588109696)は石化呪文。
魔法のコードを語呂合わせで発動させるアルスというのが、閉塞的な魔女界で如何に型破りな存在であったか。
そんな天才を傍で見守るエバに当人も知らぬ間に積もっていた嫉妬や憎悪は今考えればお察しですね・・・。
「まどか」を境に魔法少女ものの談義が活発になった印象があって、そういった談義の場に是非とも投入してみたい作品です。
如何様にも深められる部分もありつつ、ダークファンタジーな魔法少女という稀有なジャンルを切り開いた意欲作として後世に残していきたいですね。