yoshia さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:----
人生の宝物
{netabare}
※2018/10/08 大幅に改稿しました。
これまでに三度ほど見返していますが、やはり何度見ても面白い作品です。強靭なシナリオで構築された本格ミステリーです。原作を読んでいないので、そちらからアプローチは出来ないですけれども、アニメのシナリオとしては全く隙がない。エンターテイメントとしても、メッセージ性も、考察の余地の残る微妙なさじ加減も、他作品と一線を画すという意味で「最高ランク」と言って差し支えない程の作品でした。
以下、感想・考察になります。
1、蜘蛛の糸、殺人の動機
八代学は、ハムスターの一件から蜘蛛の糸を見るようになります。作中で言いますと、藤沼悟、雛月加代etc...。ではどういった人物に対して八代は蜘蛛の糸を見ることになるのでしょうか?
個人的な意見としては、「ありもしない希望を信じる人間」について蜘蛛の糸を見るのではないかと思います。
きっかけとなったハムスターについては、一般的に可愛い動物と『信じられている』ハムスターについても、自分の生死に関わる状況になったら仲間の死骸によじ登って生き長らえようとするし(これは「可愛い」と人間に信じられているだけであって動物の本質的な行動ではありますが)、加代については、人とふれあうこととない無人島に行きたいというありもしない希望を卒業文集には書くし、悟は「お前の未来を知っているぞ」なんて言う。
八代の殺人の動機は「そんなありもしない希望を信じる人間をこの手で殺したい」という動機だったのではないか?おそらくその動機は彼の深層心理を巣食うもので、表面的には「足りないものを埋める」という動機で動いてた様に思います。
作中で「僕のためだけの死を望む」というような事を語っていましたが、おそらく八代がもともと「人を信じる」という心理を持ち合わせていない人間だったから、人を殺すことに躊躇がなかったのだと思います。
人を信じない世界というものがどういうものなのか?を考えるに、そこに善悪は存在せず(善悪は個人の主観なので)、自分の利益でしか物事を判断しない功利主義の世界です。そういった世界では人殺しは一種の快感なのかもしれません。
個人的な意見としては、杉田広美、中西彩については、そういった純粋な殺人の快感として(フェイクのための殺人もあるかもしれませんが)藤沼悟、雛月加代については、もっと根深い「ありもしない希望を信じる、語る人間への裁き」として殺人を行っていたかのように思います。
2、八代学はなぜ藤沼悟を助けたのか?
八代は、水没した車両から悟を救いあげていますし、ラストの悟が屋上から飛び降りるシーンについては、寸でのところで車椅子の足を掴みあげています。つまり、八代は悟を殺すことができなかったのです。
人を信じることが本質的にできなかった八代にとって、悟の「お前の未来を知っているぞ」という言葉は、功利主義の大原則である論理的思考からしたらまったくありえない話、ではあるけれども、悟の今までの先手先手を打つような行動からするに、「ありえない」と一蹴することはどうしても出来ない。だってありえないことが、現に起こっているわけだから。
だからこそ、八代は悟の真意を確かめるまでは、絶対に殺すことが出来なかった。非論理的なことを、論理的に判断できるまでは悟は殺せなかった。極めてロジカルであるが故に、そこが八代の弱点だった。
3、『僕だけがいない街』
さてさて。上記はあくまでミステリ的な考察です。私個人としてはそういった動機よりも、その全体から発せられる内なる声、の方に重きを置いていますので、この作品から発せられるメッセージ性について語っていこうと思います。
『・・・僕は何度もこの人生を生きなおして、何人もの仲間を先生に殺されてきた、だけど今は憎しみは無いんだ。』
ピザ屋でバイトをしている俺。友達もおらず、自作したマンガも認められない。過去に後悔はあるものの、後悔というほど切実なものではなく、現状を支配しているのは茫洋とした虚無感。けだるげな現実。
そんな中、非現実が姿を現す。母さんが何者かに殺された。警察からは加害者と認識されどうしようもない袋小路に差し迫った時、リバイバルが起こり時間が遡行した。悲劇を食い止めるために「あの時こうしていれば」を一歩ずつ踏みしめる。踏みしめていつの間にか見上げた先には「友達」ではなく「仲間」がいて、「血縁」ではなく「母」がいた。
リバイバルがなければ「仲間」は得られなかった。だからこそ八代に対する憎しみは無かった。
『僕だけがいない街。僕だけがいない時間。それこそが僕の宝物だ』
僕がいない時間に僕を思ってくれている人がいて、僕のために動いてくれている人達がいる。利益とか、寂しいから、とかではなく、ただ「楽しい」から僕の名前を呼んでくれる人達がいる。それこそが、僕の人生の宝物なんだ。
4、そして蜘蛛の糸は消える。
人をこれまで信用することができなかった八代が、悟の言葉を初めて信用することができた。そして「ありもしない希望」を象る蜘蛛の糸は、八代の視界から消え去った。
{/netabare}