明日は明日の風 さんの感想・評価
4.4
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
戦時下を生きた一人の女性と家族の物語、文句の言いようがない名作
鑑賞してきました。80人規模の小ぢんまりした劇場ですが、平日の朝一にもかかわらず、半分くらい埋まっていました。君の名は。とは異なり、学生風情の若者から初老の夫婦まで、客層が幅広いのが印象的で、アニメは普段見ない人が大半ではないかと思いました。公開規模も大きくはないスタートでしたが、評判が評判を呼び、今に繋がっています。君の名は。も、聲の形も、公開規模は大きくなかったんですよね。宣伝も大規模にしていたわけではないのに、口コミ効果という感じで、どんどん観客を増やしていきました。この作品もまさにそうで、スクリーン数も増えていっていることから、最終興行成績はすごいことになるだろうと思います。
この現象は映画関係者、結構ショックだったのではないかと思います。それほど期待していなかっただろうアニメ作品がとんでもないことになって、大宣伝はった有名俳優、女優の作品が大こけ。これを「2016ショック」または「2016現象」と勝手に命名しました。
さて、作品の内容ですが、本当に良かったです。戦争ものというと暗く、悲惨な暮らし、悲しい場面が続くという感じを受けますが、確かにこの作品も後半はかなりきつい場面があります。しかし、全般的に笑いも多く仕込まれており、暗くなりすぎることはありません。この話をどう受けとるかは観た人によって異なると思いますが、決して「反戦映画」ではないと断言できます。当然、戦争賛歌でもありません。ではなにかと言えば、「戦争の中の日常生活」ということではないかと思います。その舞台が呉であり、広島だったということです。呉、広島が舞台となれば当然、激しい空襲と原爆は避けて通れません。なので、戦争の悲劇や悲惨さも大きくクローズアップされてしまいます。ただし、しつこいようですが、話の流れ的には終わりのところで描かれており、そこに至るまでの話は日常の暮らしが描かれています。
{netabare}広島市内に住む浦野すずはちょっとドジでぼんやりしているけど絵が上手な普通の女の子。昭和19年、18才で呉の北條周作のもとに嫁ぎます。周作は子供の頃に出会ったすずが気に入っていて、探しだして結婚を申し込んだのです。今では考えられませんが、この当時は会ったことない人とちょっとのお見合いで結婚するのは普通でした。北條家の人々、近所の人々といろいろありながらも奮闘するすず。嫁にきたときは少女っぽかったすずはどんどん女性として成長していきます。しかし、戦争は容赦なく日常生活を変化させていきます。配給が減り、空襲が頻発し、軍港として栄えた呉の町は壊滅状態になります。そして、すずになついていた義理の姉の子、晴美を目の前で失い、すずもまた右手を失ってしまいます。さらに8月6日、呉から見えた閃光は広島の町を焼き払ったものでした。原爆によって両親も失ったすず。戦争が終わり、やりきれない思いのすず。それでも生きていかなければならないすずは、少しずつ日常を取り戻し、広島で出会った孤児を連れて明日へ向かうのでした。{/netabare}大雑把な流れです。
すごいと思ったのは、一次資料を丁寧に調べ尽くしたところです。なので、当時の町並みや時間の流れ、当時の暮らしぶり、戦況が大変分かりやすいです。戦争ものの多くは空襲の場面が使われますが、末期には大都市、田舎関わらずグラマンが低空飛行で機銃掃射を行い、多くの人が亡くなっています。この映画はここを落とすことなく、しっかりと描いています。また、戦時中の暮らしについても実に丁寧です。自分の祖父母や取材で多くに人に聞いていた内容がこの映画に描かれていました。
あとはすず役の能年玲奈の存在。この女優さんでなければ成り立たなかったというくらいはまっています。いろんな声優さんを当てはめたところで、能年玲奈以上にすずの魅力を引き出せるとは思いません。以前の事務所とは関係ない、しがらみのないところだからこそ実現できたのでしょうね。よく使ったと思います。
君の名は。と同じくらい、書いていも書いていも書ききれないくらい思うところ、考えるところ、感想はありますが、一言でまとめると「ぜひ見て欲しい」です。戦争もので避けてしまう人も多いかもしれませんが、暗くなりすぎることはありせんし、大変見易い作品です。見てもらって、感じて欲しいです。