セメント さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
何だか酷く、男が羨ましくなってしまった
異色の経歴で人気作家の仲間入りを果たした京極夏彦先生の第二作目のアニメ化です。
先生の最高傑作を秀麗な作画と鋭敏な演出でアニメ化していただいて唯々感服するばかりです。
<物語>
水木しげるワールドのような魑魅魍魎の跳梁跋扈する世界ではなく、科学の進歩が目まぐるしい現代にこそ、生まれる妖怪が居るのではないか。
百鬼夜行シリーズにおいて一本筋で描かれているテーマでありますが、アニメに於いて視覚的に捉えやすくなって一層引き立っているようにも感じました。
序盤から綿密に伏線が編まれていて、京極堂の登壇と共に見る見る紐解かれていく様には稲妻で撃たれたかような衝撃を覚えましたね。
それと結末にも繋がってきますが、11話で明かされる美馬坂と京極堂の過去について。
戦後の混乱期に起きた帝銀事件、犯人が渡した名刺を頼りにとある画家が逮捕されて事件の捜査に終止符が打たれるのですが、真犯人に旧陸軍で細菌兵器の開発に着手していた731部隊関係者を挙げる声は大きいです。
731部隊は非人道的な実験の資料を提供する代わりに戦犯不追及を条件として米軍と密約を交わしたと言われており、これが明るみに出ることを恐れたGHQが圧力を掛けたとも噂されています。
美馬坂と京極堂はまさしくこの731部隊に所属していた人間だと提示されるのです。
ここでの美馬坂の不死の研究が加奈子や久保の機能的延命に繋がり、色々な人間の心に魍魎を産むことになるのですが、ともかくアニメで帝銀事件の名を聞けるなんて思ってもみませんでした。
実際に不死の研究をしていたかは不明ですが、このような史実に即した内容に少しの嘘を混ぜることで、あたかもリアリティが感じられる側面もあり。
様々な趣向を凝らしながら推理が展開されていく様子は大変刺激的で、後にも先にもこれほど面白い話もないと思ってしまうほどです。
<作画>
流石は中村亮介監督作品といったところで有無を言わせない素晴しい出来ですね。
制作はマッドハウス、サンシャインやダンガンやファンタジアといったグロス回多めですが粗はありません。
キャラ原案をCLAMPが担当していて、主人公の関口は何故か眼鏡を掛けていますね。
キャラデザは西田亜沙子さん、原案を忠実に再現されていてどのキャラも優美な風貌を呈しています。
<声優>
平田広明さん、森川智之さん、木内秀信さんといった甘くて蕩けるような良い声が耳一杯に広がって幸せでした。
しれっと京極夏彦先生自身がキャスト参加してますね、違和感は無かったです。
<音楽>
まさかのナイトメアがOPもEDもどっちも歌ってるんですよね、凄く意外でしたけど、特にOPの「Lost in Blue」は本編の内容に即して驚くほどマッチしてます。
"もう一度生まれて、また僕に生まれて、最高の顔で笑うんだ"の所で手を繋いで廻ってる加奈子と頼子なんかこれからの展開を暗示していて怖気付きますよね。
<キャラ>
本作の主役って誰なんでしょうね、語り部は関口であって本作自体も作中作として見れないこともないですが。
私としては、周囲の歪んだ愛を一心に受け止める加奈子が主役なんじゃないのかなと。
唯一の友人と慕った頼子は加奈子を駅から突き落としますし、長年成長を見守ってきた雨宮は加奈子を入れた箱を持って幸せそうに徘徊しますし、それを見た久保は箱を模造するべく頼子らを生きたまま殺します。
狂気染みた人達に好かれてなかなか可哀想な最期を迎えてますが、美しすぎるが故に業を背負ってしまったのでしょう。
箱に入った段階で意識はあったのでしょうか、薄れゆく意識の中で反射神経が表情を動かしているだけだとしたら、想像するだけで恐ろしい話です。
まだまだ書きたいことはありますが、とにかく言えることは、魍魎に憑かれたかのように没頭してしまうほどに本作は面白いです。
お気に入りのアニメの一つです。