おぬごん さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「主演:のん」で敬遠しないで下さい。名作です。
文化庁等々から高く評価されている原作を、同じく文化庁等々から高く評価されている片渕須直監督が映画化
主演を務めたのんこと能年玲奈の騒動ばかりが注目されているせいで、やや貧乏くじを引かされた感がある作品です
私もあまり興味はなかったのですが、作品の舞台である呉を訪れる機会があったのでその予習にと鑑賞しました
まずこの作品の特徴として挙げられるのは、ほんわかとした絵柄からは想像もできないようなリアリティです
時代考証や資料調査が(原作、映画とも)よほど綿密にされているのでしょうね
当時の生活様式や習慣、社会風俗、常識が細かく描かれていて、戦争が始まるまでの前半は「へー、当時はこうだったんだー」とほとんどずっと感心していたくらいです
ちなみに私がこの作品の描写の細かさを感じたのは、冒頭始まってすぐのシーンだったりします
川に小さくカモが描かれているんですけど、このカモが「オナガガモ」という種類だと一目で分かるくらいしっかり描き込まれてたんですね
普通は日本で最も多く見られるマガモかカルガモあたりを描くところでしょうが、わざわざオナガガモを描いたということは、その川の野鳥まで意識してロケハンしていたということです
この点に(生き物好きな)私は好印象を持つとともに、リアリティある描写を徹底する姿勢に驚きました
そしてこの前半の日常描写をリアリティ満載に生き生きと描いたことが、後半戦争に入っていく上での大きな落差を演出していました
非常に上手い演出、構成だったと思います
またこの作品ではシーンが変わるごとに必ず、その場面の日付が表示されます
つまり歴史や第二次大戦に詳しいと、日付で次の展開が予想できてしまいかねないわけなんですが(「1945年8月6日に広島に原爆が落とされる」というのが最たる例です)、
そこでも予想を裏切るシーンと裏切らないシーンを使い分けることで意外性を演出していましたね
同様の「敢えて先を予想させる演出」は日付以外にも、例えばある登場人が乗る軍艦なんかでも使われていました
さて、この作品の主人公すずは、作中前半は(恐らく)当時としてはごく普通の人生を送っています
もちろんその中にも山や谷はあるのですが、何かに向けて大きな努力をしたり、親への反発があったりするわけでもなく、どちらかというと何となく普通に暮らしていたら普通に人生のレールに乗っかって、周りの人たちがみんな優しいから普通に幸せだった、というような趣きです
これ、時代は違えど今の日本人の多くが感情移入できるように作られてるんじゃないかと思うんですよね
ですが、そんなすずの日常が、唯一の趣味が、大切なものたちが、戦争に奪われていく
そんな時、我々現代日本人と等身大の主人公だと思っていたすずがどうしたか、何を思ったか
それらを経てラストシーンへと向かっていく中で、次第に涙が溢れてきました
絵柄や戦争モノだということ、また主演関係のあれこれで敬遠されている方も多いかと思いますが、ぜひ見てください
興行収入じゃ測れない、こういう作品を名作と言うんです