退会済のユーザー さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
世界の片隅で、懸命に生きた人達の物語
非常に素晴らしい、平成28年の邦画の中でもトップクラスな映画だった。
まず、風景の美しさ故かノスタルジー故か開始5分で涙腺が緩むのを感じながら、淡々と描かれる主人公の生活にどんどんと引き込まれていく。
この作品の肝なのだろうが、とにかくリアリティが凄まじい。描写一つ一つが、この作中の登場人物が70年前に現実で生活していたかのような感覚を我々に与えてくれる。
ヒロシマの象徴でもある産業奨励館や、空襲で焼失した街並みも、スクリーンの中に存在しているのだ。それだけで心が揺さぶられてしまう。
その極限まで高めたリアリティをもって、先の大戦のさ中の人間たちの生きざまを見せつけてくれる。これには、声優の「のん」の功績も非常に大きいと思う。
「反戦」などという、くだらなく薄っぺらい思想と無縁に描かれた日常劇がこれほどの感動を与えてくれるとは…。
実際、監督の意向により原作から少し変わった部分もあるとのことだ。それは今回、とても良い方向に機能したと思う。
現代の感覚で昔の人間を断罪する非常識でクズな人間も多いなかで、流されない片渕監督の信念を感じた。
しかしそれでいて、変わらない日常から急激に落とし込まれる戦争の「恐怖」は十二分に表現されている。
また、かけがえのないものを失う辛さ、悲しみも痛感し、我が事の様に心が痛む。
映像表現の緻密さもさながら、当時はそうだったであろう当たり前の生活、当たり前の感情、そういったものを映画で、アニメで観られるようになったのだなあとしみじみ思ってしまった。
細かいディテールは料理のシーンにも現れている。何年か前に放送された朝ドラ「ごちそうさん」よりも余程ごちそうさんであった。あの朝ドラは戦時下においてカレーを弁当にしたり莫大な量のステーキを近所に振舞ったりと全く意味不明な愚作だったが、この映画の料理や食事のシーンは物が無い時代の工夫と生活感に富み、しきりに感心させられた。
とりあえず、観た人しかこの感動?いや人によっては良く分からない感覚を味わうであろうこの作品、是が非でも観賞をお勧めしたい!