Derp さんの感想・評価

3.9
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 2.5 状態：観終わった

疑問点を吹き飛ばすアニメ制作陣の凄み

現実世界で暮らしている人物が異世界orゲームの中に捕らわれてしまう作品がものすごく多い今日このごろですね。

この作品で主人公は死んでも「セーブポイント」に戻ることができます。
それによって自身の「死」、あるいは他のキャラクターの「死」を作品の中で幾度となく描くことができる。

重要人物の「死」というのは非常にインパクトが大きいので、毎週放送される作品としては視聴者に次を見てもらうという点でかなりメリットがあると思います。

そして、死に戻りの話や元いた世界の事を話そうとすると呪いのようなもので自分あるいは相手が絶命するので元の世界に帰る方法を探そうにも探せないという点は面白みがあります。


悪い点や気になった点は挙げ出すとあまりに多いのですが、それがあっても「次回も見よう」と感じられたのは、制作陣の優秀さが出ている気がします。
とにかくテンポと衝撃によって湧き出る疑問を吹き飛ばすことができている。アニメという、視聴者が比較的受動的な媒体だから可能なやり方です。

一方で、考えれば考えるほど「何で？」と思うような、辻褄が合わない部分が多いです。

「ファンタジー世界だから」で全部片付いてしまうのですが、主人公にとっての「エミリア」や「レム」は都合の良すぎる人形のように見える時もありました。
というか、最後まで見てもエミリアやレムが主人公を好きになる決定的な理由に欠けてます・・・。特にエミリアに関しては主人公の入れ込みっぷりもよくわからない。

多くの人が言及しているであろう主人公・スバルについてですが、ウザいことよりも、説明不足に感じる突拍子もない言動が気になります。
一貫性がないとでも言うのか。
心情の変化がスムーズではないように感じられる。
頭の回転が良くなったり悪くなったり、そして心が折れてから立ち直るまでが早い早い。
彼のメンタルは、ストーリーにあわせて都合よく強くなったり弱くなったりしています。

1話だったか、パンチで3人の賊をのした時点で既にスバル目線で見るのはやめていたので、彼が何をしようが一応楽しめましたが。（護身術を習っていたとかならともかく、筋トレしてたからって・・・）

そしてこの作品、キャラクターの台詞が非常に退屈です。
会話の内容自体は凄く重要なのに、まるで各キャラクターが台本でも読んでいるかのようにとても退屈に感じられる時がある。

また、この異世界の全体像がいまいち見えてきません。
世界構築という点においてやや粗雑な印象を受けました。

ラストはやっぱり強引なんですよね。
原作が完結していないのなら強引に綺麗にしなくても良いと思います。
原作でもしあのままだったらちょっと驚きますが。


映像、特に作画は素晴らしかったと思います。よく動いてました。
過度にCGを使うのではなく、エフェクトも含めてアニメらしい作画だったと思います。
ただし、主人公が顔芸みたいになっていてシリアスなシーンなのに苦笑してしまう所がありましたけど（笑）


個人的には「キャラが可愛い/かっこいい」は評価としてはプラスにならないんですよね。
人間は意外と単純で、"良いことをしてくれた人物"には良い印象を抱き、トラブルを起こしたり、悪いことをした人物には悪い印象を抱くものです。
本当に心の底から可愛い/かっこいいと思えるキャラクターはおらず、表面的なものでしかありませんでした。そこもファンタジー世界らしいのかな。

リゼロの渡邉監督が京アニにいた頃の先輩にあたる某アニメ監督(?)さんも仰っていたのですが、「現実逃避＋萌え」ですべて片付けられてしまっているんですよね最近の作品は特に。
この作品はまだ答えが出ていないので結論は出せませんけれど。

もし本作が、「ナツキ・スバルという人間が異世界に捕らわれ、死ぬこともできずにループして足掻く様を、観衆(視聴者)達がまるで見世物を見るかのごとく楽しんでいる」という構図を本質的に描こうとしているのなら、感服します。もしそうだったらの話です。


長くなりましたが、2クールでしっかりと物語を描き、丁寧な作画で視聴者をだれさせることがなかったのは評価できます。
2016年のアニメの中では優秀な部類に入る作品でした。
いつか続編があるのなら楽しみです。


{netabare}
以下は下らないたわごと程度のものなので気にしないでください。

ループとか異世界とか死んで戻るとか弱い主人公とか、リゼロに似た要素を持つ作品はたくさんあると思います。

しかし、自分がリゼロを観て、この作品でやろうとしていることをもっと上手くやってのけたのが、ちょうど10年前に発売されたアージュの「マブラヴオルタネイティヴ」だと何度も思いました。

世界構築、台詞の説得力、異世界の人間との価値観の差、異世界で生きていく過酷さ、葛藤と挫折、そこから這い上がるために必要な事、死への向き合い方、愛、友・・・いずれも。
{/netabare}