はあつ さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
笑顔の入れ物
普段アニメを見る見ないに関わらず、老若男女にオススメで、1人でも多くの人に観ていただきたい名作です!
70年以上前の日本の戦時下のありのままの日常の中で、
心揺さぶられる主人公の喜びや悲しみ、微笑んでホッコリ癒される数々のシーン、胸を打つ家族愛や夫婦愛のエピソード、それらが一杯につまっている素晴らしいストーリー!
登場人物達の味わい深い名セリフで、当時の状況だからこそのドラマが紡がれ、恋心と愛情の交錯する一場面だけとってみても凡百の恋愛作品が霞むほど・・・
こうの史代先生の原作は未読なのですが、以前読んだ「夕凪の街桜の国」から、おそらく原作の世界観は忠実に再現されていると思われます。それ以上に片渕須直監督は素晴らしい演出で作品性を高められたのではないでしょうか。
監督が丹念に調べられた当時のディテールは、その時代にタイムスリップしたかの錯覚を覚えます。
当時の生活をリアルに再現し、当時の人々が見た光景を丁寧に映した背景。
生々しく臨場感にあふれる街中の生活音や空襲時の爆撃音。
コトリンゴさんの優しく叙情的な音楽。
それら全てがストーリーに見事に融合され、様々な感情が観客の心に強く深く響きます!
私、公開2日目に観たのですが、立ち見もされてた満席の狭い館内で、上映終了後にたくさんの方が拍手されました。今年のヒット作「君の名は。」を公開2日目、「聲の形」を公開初日に鑑賞した時は、(どちらも素晴らしい作品でしたが)拍手は起こらなかったです。
それは、たまたまかもしれないし、観客の年齢層が高かったのもあるかもだけど、それだけ賛辞を惜しまない人達が居たことは確かで、自分も感動を与えてくれた事に心から喝采を送りたい。
上記2作品に比べると、キャラクターデザインは当世風の萌え画ではないのですが、主人公のすずさんは天然おっとり系で、嫁入りしても少女っぽさが残る可愛らしい女性です。
少々ドジなところが人を和ませ、その優しい人柄と絵柄がマッチして、魅了されると思います。
若い方には戦争時代を描く重苦しさから敬遠されるかもしれません。確かに当時の悲劇も描かれています。
しかし、戦争の残酷さや反戦を訴えるというより、苦しい時、悲しい時ににどうやって生きていくかも一つのテーマになっているので、現代の生き方に重ねる事ができ、観終わった時には勇気づけられると思います。
~この作品の登場人物は架空でありながら、現在90歳以上になられる、家族や子供達を守りながら懸命に生きてきた、今の自分につながる現実の人達のようで、敬意を表さずにいられません~ 28.11.22記
以下はネタバレの感想になります。
{netabare}
ストーリーについて:
主人公のすずさんは当時の平凡な女性なのに、序盤から中盤までのユーモラスで愛らしい描写にすっかり虜にされました。
そうして思い入れたっぷりになった彼女に襲う戦争の暴力と悲劇。
壊れそうになり、やり場のない怒りをぶつけるすずさんを見てると胸が張り裂けそうになります。
しかし、周囲の人々と過ごしていくうちに前を向きはじめるすずさん。
「うちはこの先ずっと笑顔の入れ物なんです。」
それを聞けた時は安堵感で心から嬉しさが込み上げました。
素晴らしいシーンをあげると切りがないので一つだけ。
水原さんが訪ねてきたエピソード―
すずさんの込み上げた恋心と夫への揺るがぬ愛、水原さんのたぎる想い、夜の納屋から朝の見送りまでの胸熱さ!
そして、好きあっていた2人を離したのかもしれないと思い、水原さんの死の覚悟を聞くにいたって、愛する妻を行かせた周作さんの葛藤と思いやり!
すずさんが怒るのは当然でしたが、あの夜の周作さんの想いが伝わり、微笑ましい夫婦喧嘩を見ながら涙ぐみました。
作画について:
料理シーンでは、火を熾したり材料を調理するさまがリアルで、自分のカミさんの田舎にある使われていないかまどの在りし日の光景が浮かびました。
軍港の描写も自然で、戦艦大和が入港するシーンでは甲板上で作業する水兵まで精緻に描かれているのですが、戦争物で感じる迫力や威容を出す演出はせず、あくまでも当時暮らしていた人が見たままの日常の風景として溶け込ませているのが巧いと感じました。
アニメーションらしさも随所に。
波間のうさぎが跳ねたり、高射砲の弾幕がパステルカラーになったり・・・絵を描くことが好きなすずさんの心象風景に感嘆しました!
また、全編を通じての淡い色調から一転、ラストで鮮やかな色彩で描かれた山並みが、希望に満ち溢れた未来を象徴するかのようで感動的でした。
声優さんについて:
すずさんを演じたのんさん。キャラクター通りのピッタリな声で後半にみせた激しい感情をぶつけるところは女優としての才能を感じますね。
でも、正直なところ私は、声優さんに演じてほしかった~
自分がアニメファンなので声優さんをリスペクトしているからだけではないんです。
私には能年さん時の女優さんのイメージが強くて、中盤まで、すずさんの顔にあまちゃんの顔が何度もダブって見えちゃったんです。
アニメの声優さんが、俗に言うアニメ声しか出せない訳がなく、あどけなく自然で素朴な声も、場面に合わせた感情表現も、完璧に演じれる方が沢山います。
むしろ、声優ではないのんさんがその仕事を見事にこなせた事は評価される事だと思います。
もうひとかた、周作さんを演じた細谷佳正さん。この時代の男性らしい控えめな優しさを感じさせる好演をされてました。個人的に男性声優さんでは好きな方で、ワイルドな野太い演技が似合うと思いますが、作品の淡い絵柄からも似た雰囲気で、一週間フレンズの桐生くんを思い出しました。
余談:あくまで私的な思い出~
戦争当時小学生だった父から、生前に聞いた唯一の戦争時代のエピソード。
関西の工場地帯に住んでいた父は、空襲が酷くなったので親(私の祖父母)の故郷に疎開したそうで、その地が広島の呉だったんです。(私は呉に行った事はなく、なぜ同様に空襲の激しい地へ?と父の戸籍を見ると、同じ呉市でも川尻町という、すずさんが暮らした港よりかなり東方の地だと知りました。)
その疎開時に、朝、外が光って表に出たら山の向こうに原爆の雲を見たとの事でした。
その話を聞いた時、私が「きのこ雲やったん?」と父に尋ねると「お化けみたいな雲や」って答えました。
この映画を見て正にそのシーン、父の言葉がよみがえり、父が見たのはこの光景だったんだ!と感慨深かったです。
自分にとっては、別の意味でも聖地である呉へ、是非、巡礼したいものです。{/netabare}
追記:80歳前の私のオカンが観た「この世界の片隅に」
正月休みの帰省時、私の母に本作を勧めたところ、先日、近くの映画館で上映されたので観てきたとの事。
あにこれで高齢者の感想を知る機会も無いかと思い(知りたい人無いかな・・)他愛もない簡単な追記あげます。 29.3.23記
{netabare}
ー映画観てどうだった?
「あの時代の日本人はあんなんやったんやでー」
(良かったんか、つまらんかったんか、わからんがな~)
最初の答え、このまんまでしたが、さらに聞くと、良いも悪いもなく、当時の感覚が甦り、その時にあった事や一緒に過ごした人達を思い出せたのが凄かったらしいです。
ーなんでそう感じたの?
「アニメやから。」
(なんやて!)
「 朝ドラとかで、顔の綺麗な足の長い俳優さんが戦争時代を演じても、この映画みたいに感じることはできへん。」
(お~っ!!監督の想いが伝わってるやん♪)
私がアニメ好きとは知らない母は、普段、実写ドラマやバラエティー番組しか観ないお婆ちゃんです。
そんな人からこんな感想が聞け、息子としてではなく、いちアニメファンとして嬉しかったです。
その後、空襲の体験談や私の祖父母の話を長々と聞けました。詳細はアニメと関係ないので省きますが、今まで聞いた事のなかった話が聞けたのは個人的に収穫でした。
最後に
ー1番良かったシーンは?
「裁縫して服を作ってたとこ。」
(えっ、そこ・・)
「お母さんが私の服を繕うてくれてる姿を思い出したんよ。」
ー最後の方がもっと良くなかった?
「つらかったわ。」
(悲しいこと思い出したんかな・・)
「2時間も同じ姿勢で座ってたら腰が痛なってもうて。」
(監督、やっぱり伝わり切れてませんでした・・^^;)
{/netabare}