ostrich さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
この世界の片隅にいる誰か
掛け値なしの傑作。
本作は戦争映画、反戦映画ともいえばいえるが、根本的には「日常系」の作品だ。
「日常系」を、登場人物のどこにでもありそうな日常を丹念に描くことで、観客、視聴者にエモーショナルな何かを引き起こす種類の作品、もっとざっくりというなら、「みんな、なんでもない日々を、笑ったり、泣いたりして生きているんだよね」という共感を生む作品、と定義するなら、本作はまず、そこに分類するべき作品だと思う。
ただ、その日常が戦時下であるというだけのことだ。
そして、戦争はそもそも酷いものなので、日常の視点から丹念に描けば、当然の帰結として、酷いものに見え、その結果、戦争映画、反戦映画にも見えるということだろう。
実際、登場人物の中に反戦を叫ぶ人間はひとりもいないし、むしろ、戦時下であるがゆえに、ほぼ全員が戦争に加担、協力、献身しているともいえる。
にも関わらず、ほぼ全員が酷い目に遭い、生活に致命的な影響を受ける。
これって近代戦争の本質だろうな、と思った。
だが、本作の特筆すべきところは、こういう戦争論で話が終わっていないところなのだ。
比較として本作と同じく戦時下の日常を描いた「火垂るの墓」を挙げてみる。もちろん、「火垂るの墓」も掛け値なしの名作なのだが、あの作品は徹頭徹尾、戦争論の作品であり「戦争映画」と言えると思う。
{netabare}本作と同じく、日常を描いてこそいるが、その日常は異常なものであり、最終的にはそれすらも主人公の死で終わりを迎える。そして、振り返れば、物語全体を死者が語っていたことに気付く、という構造を持っている。戦争によって日常を完全に奪われた人物が語る物語は、当然、戦争論として完結せざるを得ない。{/netabare}
一方、本作は徹頭徹尾、生きている、生き続けている誰かの物語だ。
{netabare}もちろん、登場人物のすべてが戦争で致命的に傷つくのだけれど、彼らはその傷を受け止めて生きていく。多少の誤解を恐れずに書けば、戦争すらも人生の起伏の一つとして日常の中に飲み込んでいく。{/netabare}
そして、その先にあるものは、言うまでもなく、今、私たちが生きている「この世界」であり、その片隅で生きる「わたし」や「あなた」なのだ。
本作の登場人物たちが過ごした日常は、確実に私たちの日常につながっている。その力強さを描いた、という点でも、やはり本作は、何よりも「日常系」と分類するのがふさわしい。
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個人的にものすごく応援したくなる映画でした。
何の留保もなくオール★5にしたのは初めてかもしれません。
心から大ヒットを祈る!