101匹足利尊氏 さんの感想・評価
3.7
物語 : 2.0
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
同時代のボスニア紛争に激突、爆散したガンダム
物語は見事にクラッシュしていると私は思います。
当初、目論んだであろう作風すら消滅してしまっています。
でもリアルタイムに視聴した私にとっては、
冷戦終結後も地域紛争が続いていた同時代との関わり方が、
結構、印象深かったガンダムでもあります。
富野監督自身は本作を評価するのはやめてくれ。
と方々でおっしゃり続けていますがw
僭越ながら、その辺りを語らせて頂きますw
{netabare}冒頭のナレーションでほのめかされた通りだとすると、
本作は人間は戦いを繰り返す愚かな存在である。
だからと言って、エンジェルハイローにより
闘争本能まで削いだらもはや人間社会たり得ない。
戦いも含めて人間らしさであり、その先に可能性もあると信じたい。
こうした着想を、主人公ウッソら次世代を担う少年少女たちの冒険譚を、
適宜、明るさ、楽しさも交えて描写していくことで、
戦いの果てにも未来に向けて光明が差す。
そういう筋書きを通じ語っていく……。
冷戦終結後、初のガンダムTVアニメシリーズにて、
未だ戦火が収まらない世界にも希望のメッセージを贈る。
そんなガンダムになるはずだったと思われます。
ところが、現実世界の紛争。
特に当時の旧ユーゴスラビア、ボスニア紛争は想像以上にえげつなかった。
本作も人々を腑抜けにするエンジェルハイローによる救済が求められる程度には、
戦争の悲惨さを描いて行こうとはしました。
けれど放送時は、テレビ朝日で17時に本作で、ちょっと仲間が一人落命したところで、
18時の全国ニュースにてボスニア紛争等で
民族浄化、引き裂かれた家族や恋人、強制収容所、空爆、人間の盾と、
悲惨な光景が立て続けに飛び込んでくるわけです。
本作にてギロチンで首を落とした程度では、現実世界の紛争と照らして、
とても戦場のリアリティを感じられるものではありませんでした。
ここで、現実世界とのチャンネルなど締め切って、
アニメ世界に引き籠もって物語を展開しても良かった。
けれど、スタッフたちはそれをよしとせず、
まるで現実の紛争と張り合うように、
恐慌を煽る千住明さんの楽曲と共に、
鬱展開が加速していきました。
さらに富野監督が『Ζガンダム』でも発病した、
ガンプラメーカーの都合で作品を振り回されたくない病が再発w
そもそも初回ガンダム登場後、
2~4話でそのいきさつを語る時系列前後など、
ガンプラ販促構成の極みw
富野さんへのストレスは多大なものだったと想像されます。
ボスニア紛争も本作も泥沼化の様相を呈して行きました。
こうして“皆殺しの富野”の暴風雨が吹き荒れた末、
最後、人間から闘争心を奪い支配する試みが頓挫した後で……。
戦うのもまた人間。希望はあるさと言うムードなど漂う気配もなく……。
当初、いるはずだった、未来を夢見て上を向く青少年の姿は何処にもおらず……。
人間同士で傷付け合ってしまった悲惨さ故の落涙で物語は締めくくられるのでした。{/netabare}
当初の構想が崩れた作品など、
確かに評価に値しないのかもしれないと私も思います。
けれど、一方で、物語の圧壊を恐れず、
現実世界とのつながりを絶たずにぶつかって行った。
その蛮勇は称えたいという気持ちもあります。
私にとっては最も同時代性の強いガンダムとして印象深い作品です。