「エルフェンリート(TVアニメ動画)」

総合得点
88.2
感想・評価
2908
棚に入れた
13812
ランキング
124
★★★★☆ 3.8 (2908)
物語
4.0
作画
3.5
声優
3.7
音楽
3.9
キャラ
3.8

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ネタバレ

キャポックちゃん さんの感想・評価

★★★☆☆ 2.2
物語 : 1.0 作画 : 2.0 声優 : 3.0 音楽 : 4.0 キャラ : 1.0 状態:観終わった

単なる扇情的アニメ

 全話視聴済み、原作未読。
 以前にDVD第1巻のみレンタルし、あまりのおぞましさにそれ以上見る気を失った作品だが、美術評論家の平松洋氏がクリムト「接吻」に絡めて評した記事(2016年2月12日付日経新聞朝刊文化面「サブカルを触発したアート十選」2)を目にし、終わりまで視聴した上でレビューを執筆することにした。
 平松氏の評は、主にオープニングアニメを対象としており、「どこまでも優美にして荘厳。しかも、ラテン語詩の主題歌「LILIUM」の静謐な音楽が心に沁みる。絵画とアニメの融合という新たな境地が開かれている」と記す。ところが、私にとって、このオープニングは、クリムトの華麗で装飾的な絵画に作中のキャラを無理にはめ込んだだけで、酷く調和を欠き不快に感じられたもの(音楽は美しい)。本編に関して平松氏は、「血みどろのシーンが多く要注意」とコメントしながらも、「人類を駆逐する進化体と主人公の壮絶な運命を描いた「セカイ系」の快作」と好意的。だが、私には、単に扇情的なグロアニメとしか思えない。
 私が『エルフェンリート』に対して批判的なのは、プロットとシチュエーションがかみ合っていないためである。グロテスクな表現があるからダメだというわけではない。『サイコパス』では、管理社会で圧殺された心の闇がどんな形で噴出するかを描くために、『BLACK LAGOON Roberta's Blood Trail』では、正義と残虐さが両立し得るかを問いかけるために、グロシーンが有用である。これに対して、『エルフェンリート』は、人類を滅亡させる力を持った新人類「ディクロニウス」の残虐さを描くものの、なぜ彼らがそれほど残虐になるかについては、「DNAからの声に従って」と言うだけで、説得力を持つ形で表現できていない。監督の神戸守は、この作品の本質を「差別と救い」と述べている(VAPホームページ)が、作中で紹介される差別は平凡なイジメでしかない。強大な国家権力に対抗する唯一の可能な手段として、テロリスト時代に身に付けた殺害方法を利用せざるを得なかった『BLACK LAGOON』のロベルタとは、残虐さに向かう必然性の重みが違う。
 人類を殺戮することを宿命づけられたディクロニウスと、これを苛烈な手段で排斥しようとする人類の相克を描くことが『エルフェンリート』の基本プロットであるとすれば、登場人物の置かれたシチュエーションは、このプロットを支えるだけの強靱さを備えていない。例えば、ヒロインのルーシーは、頭部に受けた傷害が原因で記憶喪失になった上に、幼児期にまで精神的な退行を起こし、さらに、同一性障害を発症して記憶が回復するのは別人格に限定される。この、取って付けたようなシチュエーションのため、ルーシーの行動は各シーンごとに異なった人格によって支配され、内面的な葛藤は生じるべくもない。わずかに、第9話において自問自答するシーンが見られるが、『十二国記』第7話の同種のシーンと比べれば、いかにも表面的でおざなりな描写であることがわかる。だいたい、記憶が不分明だとするだけで物語が成立するのに、なぜわざわざ幼児期にまで退行させたのか? 私には、同じキャラに無邪気さと残虐さを付与するための方便にしか見えない。おまけに、主人公のコウタまでが記憶喪失だという設定で、原作者がいかに場当たり的にストーリーをでっち上げたかがわかる。記憶喪失は、M.デュラスが素晴らしい脚本を書いた『かくも長き不在』のように、うまく使えば内面を浮かび上がらせる手法として効果的である。実写映画ならば、他にも『過去のない男』『メメント』など名作が何本もあるのに、アニメでは、『ef - a tale of memories.』以外には(特定の事象に関する記憶だけが欠落するという現実にもよくあるケースを除けば)設定を活かした作品が見あたらない。
 どんな芸術作品でも、作者の思いを全て表現することは不可能であり、あくまで断片として提示されたものを受け手側が補完しなければならない。補完を行うには、登場人物の心理のような作品内部の連関性が手がかりとなる。ところが、ヒロインが記憶喪失で多重人格、行動を支配するのが何も考えない幼児か有無を言わせぬDNAの人格という『エルフェンリート』には、そうした連関性は全く見いだせず、ただ扇情的なシーンがバラバラに積み重ねられるだけである。これでは、センシュアルな興味を覚えることはあっても、人生の糧となるだけの実質を備えたものを作品世界から得ることはできない。本作は、海外でかなり人気があるが、それは、少女の全裸シーンや萌えとスプラッターの混交など、欧米のアニメでは決して描かれない扇情的な描写がなされ、「アニメのタブーに果敢に挑戦した」作品と見なされるからであり、ドラマとして優れていると評価されたわけではない(と思う)。
 ファンの怒りを買うかもしれないが、私は、ハクスリー『すばらしき新世界』のサヴェッジ・ジョンのように、敢えて言いたい。「でも、これはくだらない作品だよ」と。

投稿 : 2016/11/01
閲覧 : 414
サンキュー:

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