てけ さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
新海監督盛り、アニメ味。過去作品とのざっくり比較
新海誠監督の映画。107分。
東京の学生、立花瀧(たちばなたき)と、田舎で神職の家系に生まれた宮水三葉(みやみずみつは)。
二人は夢の中でお互いの生活を送るという体験をするが、やがてそれが現実の出来事であると気づく。
この体験にはある重大な事件が関わっているのだった。
夢って不思議ですよねー。
意味不明な環境でも頑張っちゃうし、
感極まって気付いたら枕を濡らしていたりする。
見知らぬ人に惚れるなんてこともある。
泡沫のもうひとりの自分です。
『君の名は。』は「大きな距離を隔てた想い」というテーマを扱った作品です。
それを「男と女」「革新と伝統」「光と影」などの対比を多用し描いています。
というか今までの作品がずっとそうです。
『ほしのこえ』では圧倒的な物理的距離。
『雲のむこう、約束の場所』では世界という大きな壁。
『秒速5センチメートル』では遠距離恋愛。
『星を追う子ども』では生死の境界線。
『言の葉の庭』では年齢と立場の相違。
今回は、物理的距離がある意味0です。
しかし、0であるがゆえに直接コミュニケーションを取れません。
入れ替わりという設定は、そんな監督の距離に対するこだわりから来ているはずです。
軸となるテーマや表現手法は同じ。
しかし、ポップさやコメディ要素が、見やすさを思いっきり引き上げています。
過去作品では「キャラが別のキャラを笑わせようとする」というシーンはありました。
でも、積極的に「キャラが視聴者を笑わせようとする」という展開は初めて。
「娯楽」という言葉に入っている通り、「楽」の感情はエンタメの大事な要素です。
「楽しい」と感じる場面のおかげで、間口がこれまでにないほど大きくなったと思います。
四葉の反応ほんと好き。
風景は相変わらずきれいです。
* 雲間から差し込む光(天使のはしご)
* 雲の上からの俯瞰風景
* 眩しいほどの光を背にしたシーン
はおなじみ。
{netabare}
今回メインストーリーに関わってきた「黄昏時」。
過去作品でもふたりの距離が急速に縮まる時、夕日が姿を見せています。
{/netabare}
涙と水滴の混同を誘ったり、{netabare}彗星の尾と組紐とへその緒を掛けたり{/netabare}、視覚効果も高かったです。
今回は「風景の美しさ」に「人の動き」が加わっています。
* 表情が豊か
* しぐさが細かい
* 生活感が出ている
* カワ(・∀・)イイ!!
過去作品では、美しい背景の中、心情を読み上げるという「ポエム」のイメージが強かったです。
しかし、作品出すたびにだんだん変化していきます。
CMである『クロスロード』で、キャラの動きを活かした軽快なPVらしさを出し、『君の名は。』でそれを更に発展させてきました。
躍動感が生まれ、コメディが加わったことによって、「よりアニメっぽくなった」とも言えるでしょう。
これにより、大げさな表現が可能になります。
また、ステレオタイプな言動があっても、キャラクター付けの一部として違和感なく捉えやすくなっています。
なお、小道具の扱いはやっぱり新海監督でした。
電車: 人々の想いの強さや方向を表す
携帯: 遠い距離を飛び越えようとする心の声
雨や雪: 心と心の間のカーテン、思考に対する足止め
中でも『秒速5センチメートル』との対比は面白かったです。
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『秒速5センチメートル』では逆走する電車によりふたりが引き離されます。
『君の名は。』では並走する電車がふたりを引き合わせます。
『秒速5センチメートル』ではふたりの間に花びらのカーテンがあり、振り返ったら誰もいませんでした。
『君の名は。』では雨が上がっていて、振り返ると想い人がいました。
想いの方向と強さが一致したからこその奇跡を、新海監督らしい手法で表現しています。
同じシチュエーションを使いつつ、結果を変えてきたのがなんともにくい。
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話には勢いがあり、中盤は特にワクワクしました。
ただ、物足りなかったのはラストシーンにかけての展開。
{netabare}説得前から事件解決後{/netabare}までの流れがあっという間です。
新海監督は後片付けが早いんですよね。
シーンはきれいなんだけど、もうちょっとじっくり描いて欲しいと欲張りたくなります。
設定には疑問点が多く、ストーリーもすげーとはなりませんでした。
しかし、エンタメ要素をたっぷり仕込んできた監督はすげーです。
こだわりを捨てることなく、裾野を大きく広げた作品を見せてくれました。
キャラクターの心情描写をシンプルにしたことも、一般受けにつながったのだと思います。
絶大な反響でプレッシャーも強そうですが、今後どういう方向に変化していくのか楽しみです!
■おまけ「星の名は。」
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糸守町(いともりまち)に落ちた彗星の名前は「ティアマト」。
ティアマトはメソポタミア神話における母神で、「苦い水」という意味を持っています。
ティアマトは戦いの末、体を引き裂かれ、その体は天と地の素材になりました。
名前の由来はこれだけでもいいのですが、ちょっとここで聖書に注目。
新約聖書の黙示録には、
「たいまつのように燃えている大きな星が、空から落ちてきてた。
そしてそれは、川の三分の一とその水源との上に落ちた。
この星の名は苦よもぎと言い。水の三分の一が、苦よもぎのように苦くなった。
水が苦くなったので、そのために多くの人が死んだ」
という記述があります。
メソポタミア神話における「苦い水」という意味。
引き裂かれて地の素材になったという話。
聖書における星が落ち「水が苦くなった」という記述。
「三分の一」という数字。
なお、歴史改変前の糸守町の犠牲者は、町の三分の一。
Ω_ΩΩ<な、なんだってー!?
{/netabare}