あんにゅい さんの感想・評価
4.4
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
魔法少女=凄惨な運命
魔法少女まどかマギカがどうして大人気/大反響だったのか。思いつく限り整理してみたい。まず周知のとおり、まどマギは魔法少女モノというジャンルに風穴を開けました。魔法少女モノは一般に女児向けとして長い間親しまれてきたメジャーなジャンルです。最近では「プリキュア」シリーズがその系譜ですね。まどマギ以前の魔法少女モノは総じて明るく楽しい勧善懲悪で「魔法」はあくまで勇気や元気のアレゴリーだから制限も副作用もなにもないよ、というような痛快で明快なルールに則ってストーリーが進行しました。
しかしまどマギはそうしたこれまでの魔法少女の常識を批評的に問い直し、合理的で論理的かつ経済的な考え方からいけば魔法少女とはこういう風になるはずだ、という視点からまったく新しい魔法少女の在り方を表現します。まどマギから受ける衝撃の一部はこれまでの常識を破壊したことにあるでしょう。
まどマギ劇中の「魔法」はギブ&テイクです。魔法少女の雇用主の地球外生命体は少女達の願いを叶え、対価として感情エネルギーを搾取する、ある種の物々交換のために交渉へやってくるのです。
まどマギは、萌えアニメや日常系などの深夜アニメの枠内で主流を成す作品とは一線を画すアニメでもありました。安定したジャンルの常識を破壊し、夢物語を地面へ堕落させ厳しく残酷な荒野での戦いを余儀なくしたストーリーは、そのエッジを3話で初めて露呈し、「マミった」というスラングとともに圧倒的なインパクトを植え付けました。
ストーリー展開はその後衰えを知らないまま幾度も次元を超えました。次元超越に際してあらゆる想像力が動員されています。魔法少女のステキなバトルは残酷な死をともなうリアリズムの世界だという暴露があり、魔法少女は魔女となってエネルギーを回収される装置であることが判明する。ここまでが第一の次元で、最初の絶望です。続いてほむらがタイムリープ能力によって何度も同じ世界をやり直しては失敗していることが明らかになり、ほむらがラスボス「ワルプルギスの夜」を倒すまで永遠に脱出できない閉じた世界が現れます。この第二の次元は美少女ゲームの想像力が働いていますね。ループし続ける閉じた世界は多くの美少女ゲームがぶつかる最大の壁です。ここでほむらの絶望が描かれます。そしてラストは、神話です。人が神になるまでの壮大な詩です。突飛な神話的想像力も、これまで味わった絶望がそれを待ちわびていたかのように感じさせます。巨大すぎるラスボス、理解不能な地球外生命体を前に、もう、神に祈るしかないような。
二転三転するストーリーが超展開へ結びつく訳ですが、その演出もまとめ方も素晴らしく、また説得力に満ちていたことが誰しもの心に称賛を湧かせて絶賛の嵐が社会現象的な規模でおきたのではないかなあと思います。普通に面白すぎる、みたいな感じで。
いやはや、ストーリーがやっぱり凄いんですが、実際それをアニメに昇華するのは並大抵のことではなかったようです。というのも、まどマギの影響で魔法少女モノの新作が続々と生まれたり、酷な運命をたどるストーリーが流行って、今や「魔法少女=凄惨な運命」がテンプレとして人々の脳にインストールされたくらいなんですが、遂にまどマギ以上のものも比肩するものも現れなかったんじゃないかと思うからですね。
まどマギ制作に集った才能達は素晴らしい化学反応をして、魔法少女のダークサイドを大変魅力的に表現されていました。各分野のスター集合といった体で、物語の骨格を形成する脚本を虚淵玄氏が、キャラクターデザインに蒼樹うめ氏が、魔女と魔女の空間を劇団イヌカレーが、総合的なアニメ制作をシャフトが参加して、それぞれ奇抜なクリエイターで単体でも十二分に素晴らしい作品を生むんですが、奇跡的に一つの作品に融合して優れたバランスでアニメに結実していました。
一方では魔法少女と聞いてイメージする可愛らしさとかわいくてなごむキャラクターデザインがあって、もう一方でストーリーの残酷さ厳しさとデザイン的な魔女の禍々しさ、シャフトの異質な演出があって、その両極が意表を突く展開に引き込まれていって反発しながら混ざりあっていくダイナミックさに快感があった。
まどマギは魔法少女の神話にまでたどり着きました。鹿目まどかが古今東西過去未来の魔法少女を救うために、自ら神として機能する救いの装置になるまでのお話です。ひとりの少女が神になってめでたしめでたし、とオチが付くわけですが、いやしかし、神という装置になったまどかを誰が救うのか。ほむらが抱くひと匙の疑問が劇場版新編へとつながって、そこで神話は愛憎いりまじる神々の戦いへステージを移します。ちなみに、この新編も素晴らしく面白い。
まどマギはエポックメイキングなアニメでしたね。方々でよく聞くことですが、それまでの日常系の流れ、特にけいおんなどと比べてみると潮流が読めて一層面白いかなあと思います。でわでわ。