ヤマザキ さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
捨てるべき思い出・捨ててはいけない思い出
「君の名は。」(2016)、「言の葉の庭」(2013)に続いて、個人的には新海誠3作目となります。dアニメストアで視聴しました。発表は2007年、ちょっと古い分、「君の名は。」「言の葉の庭」と比較すると作画の質が落ちます。とはいえ、非常に高いレベルでの話ですけどね。時間的には1時間ちょっとなので、どうしても「言の葉の庭」との比較をしたくなります。いわば両作品とも「短編小説」ですね。比べると、作画的には劣っていも、ストーリー的には(長い分得をしているのは当然なのですが)こちらに軍配を上げたいと思います。
ストーリーは三部構成です。{netabare}主人公の貴樹(たかき)は、小学校卒業と同時に転校して別々の学校になってしまった明里(あかり)のことが忘れられない。中学1年生の冬、これまた鹿児島への転校が決まった貴樹は明里に会いに東京から栃木まで電車で向かいます。ところがその日は大雪。到着時刻を大幅に遅れて駅に着くと、それでも彼女は待っていました。貴樹と明里はキスをして、農機具小屋で寄り添って一夜を過ごします(このあたりは「北の国から」へのオマージュでしょうか?)。(以上、「桜花抄」)
貴樹は鹿児島県の種子島で高校生活を送ります。当然、明里のことは忘れていません。そんな貴樹のことを好きな同級生の花苗は、彼に告白しようとしますが、貴樹の見えない壁に阻まれて、どうしても告白できません。(以上、「コスモナウト」)
そして時が流れて、貴樹は大学進学時に東京に出て、大学卒業後はそのまま東京で就職しています。しかしながら彼女とも別れ、そして、仕事も辞めてしまいました。そんな春の日、貴樹は小田急線の踏切で明里とすれ違います。明里はすでに結婚が決まっています。渡り終えた踏切を小田急線が通り過ぎていきます。貴樹が振り返ると、そこには明里はもういませんでした。(以上、「秒速5センチメートル」){/netabare}
・・・切ない話です。結局、貴樹は小・中学時代に心を通わせた明里のことが忘れられない。{netabare}だから花苗を拒絶し、社会人になってできた彼女とも別れてしまう。{/netabare}一方、明里の方はそこまで貴樹のことに執着していない。中学卒業後の彼女がどんな人生を歩んだかはわかりませんが、少なくとも貴樹ほど過去の思い出に執着していない{netabare}し、だから、電車が通り過ぎた後に振り返るようなこともしません{/netabare}。
歌手の一青窈さんがこんな言葉を残しているそうです。
「男は過去の恋愛を、名前をつけて『思い出』という名のフォルダに入れて残す。女は過去の恋愛を、次の恋愛で上書きしていく」
このアニメを観て、最初に浮かんだのは、まさしくこの言葉でした。
思うに、結局貴樹は明里のことが忘れられないが為に、幸せになるチャンスをたくさん逃してしまっているんですね。花苗のことも然り、社会人になっての彼女や、なんとなく熱中できない仕事も然り。きっとここでお話になってないだけで、他にもたくさんのチャンスを逃しているんだろうと思います。よくビジネス書に「過去の成功体験は捨てろ」みたいなのがありますが、まさしくその典型的なドツボはまりのように感じます。
とはいえ、こんな貴樹の気持ちもよくわかるんですよね。過去の思い出は本当に美化されますし、あの頃の思い出をキレイなままにしておきたいという気持ちもある。さらには「あの頃があるから今のオレがいる」、って思いたい。あの頃を無駄にしたくない。そのあたり、非常に貴樹に共感します。
短いながらよくまとまっている話だと思います。そういう意味では「言の葉の庭」よりオススメで、「切なさ度」は「君の名は。」よりも上です。ただ、以上のようなことから、女性より男性の方が共感度合いは高いように思います。高校時代に「大切な恋の思い出」を作れたそこの貴方(貴女ではありません)、御視聴をオススメします。
・・・え、オマエはどうなんだって?・・・い、いや、まあ、ゴニョゴニョ・・・。