「タイムトラベル少女~マリ・ワカと8人の科学者たち~(TVアニメ動画)」

総合得点
62.2
感想・評価
128
棚に入れた
518
ランキング
5008
★★★★☆ 3.4 (128)
物語
3.5
作画
3.3
声優
3.5
音楽
3.3
キャラ
3.4

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ネタバレ

東アジア親日武装戦線 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0
物語 : 5.0 作画 : 3.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

大人も子供も楽しめる良作。科学理解への一助となってほしい

制作スタジオ:ワオワールド
監督:山崎理
構成:山崎理
監修協力:京都精華大学

二人の女子中学生が主人公のSF科学アニメ。
科学一辺倒ではなく、ストーリーの節々に恋愛、親子愛、夫婦愛を織り込み誰でも物語に溶け込める工夫が随所にされている俊逸な脚本、構成です。

声優さんは、真理役の豊崎さん、和花役の寿美さん、真理の母親晶役の戸松さん、黒木さつき役で高垣さんと「夏色キセキ」のユニット「スフィア」で固めていてちょっとビックリ。

理系学部出身の私にとって科学は専門分野でもあり、脚本構成の俊逸さに加え、しっかりと監修された「科学史」、紹介する科学者を順序だてて巧みに物理の分野である「電磁気学」を紹介することのみならず、エジソンパートでは世間ではよく使われて一種のスローガンのようになっている「イノベーション」の概念をも説明したことで、物語は満点としました。

理系専攻であれば、ウイリアム・ギルバート、ベンジャミン・フランクリン、アレキサンドロ・ボルタ、マイケル・ファラデー、サミュエル・モールス、グラハム・ベル、アインリッヒ・ヘルツと進めば「電磁気学」のワードを読み取ることは普通に可能でしょう。

しかし、ファラデー、ヘルツのような基礎研究と、ベル、エジソンのようなエンジニアを一色に「科学」と括らないで、研究と製品開発は分ける工夫もあっても良かったとは思います。
子供向けメッセージであれば、我が国が圧倒的に不利なのは、基礎研究分野で、これを強調するべきだったのかもしれない。
アメリカは基礎研究に膨大な投資をしており、近年、中国もこの方向にいってます。
知的財産が押さえられると、エンジニアが利用できる選択肢は減るわけですから。

なぜ「電磁気学」を取り上げたのかは知らないけど、最後に「電磁気学」の恩恵を最大限に活用したエジソンの起業についてで締めたかったのかな?
ニコラ・テスラが登場してもいいように思いますけど、大学が監修している以上、エジソンと同時期であっても、正規の学問上ではマッドサイエンシスト扱いを受けているから、さすがに取り上げたにくいのか。
ま、「電磁気学」は「量子」の発見にも繋がっているので、発展性はあります。

少し深読みすると、本作品では科学を紹介する手法としてタイムスリップを用いて、ここは荒唐無稽にみえますけど、私からみた場合、マクロ物理の到達点である相対論(アインシュタイン)がメッセージとしてあるのではないかとも思います。

なぜならば、現在のアニメのSF設定では過去改変で生じるパラドックスを回避可能な量子論から派生したパラレルワールド(スーパーストリング理論の一部)が全盛ですけど、この作品では最終回で同じ時間軸に存在してはいけない「アーミーラリーコンパス」により時空間が歪む現象(パラドックスの発生)があります。
そのほか他の話数でも過去改変に触れていることからも、単なる設定ではなく、現段階での確定理論である「相対論」に忠実な時間の解釈をすることで、可能性に一定の根拠をもたせた設定とし、「相対論」の一部をも事実上説明している離れ技をやってのけています。
子供向け番組で「相対論」を直接取り上げるのは、さすがにハードルが高いので、雰囲気を匂わせ程度に抑えたようですけど、作品の意図に合わせた巧みな演出です。

そして、この作品が適当な設定をしてはないことは、現状では仮説に過ぎない「スーパーストリング理論」の設定を避けて、時間は変化する性質があることが証明されている「相対論」を用いたこと。

「相対論」と聞くとトリハダが立つ方もいるかと思いますから、専門的な説明は省きますけど、簡単に。
相対論にはそもそも時間の概念はなく、「光速」を基準としてあくまで速度と位置関係の結果から時間歪みが導かれ、「重力の変化で低下した場では時間の進行は変化する。」(一般相対論)「光速に近い速度で運動する物体は静止している観測者からみて、時間の流れが遅くなる。」(特殊相対論、光速度不変の原理)このように証明されています

つまり、ある種の条件を満たすと同一世界にいる二人の間の時間が歪むことは物理的には矛盾しない現象です。
Aさんが時速1kmで1時間歩けば1km進むのは当たり前ですけど、相対論の場の条件下では、時間は不変であっても、それが2kmになったり(時間の流れが速くなる)半分の500m(時間の流れが遅れる)になったりすることがあるということです。
ここで、Aさんの隣で歩いているBさんにはなんら物理的な干渉を受けないと仮定すると、BさんからみたAさんが2km歩いた場合は未来に行っていることになり、500mの時には過去に向っているという観測者視点で時間が歪む現象が生じます。
光速度不変の原理に当てはめて時間の伸縮を実際に計算すると、光速の99.5%の速度で動くと0.1倍時間が遅れます。
理屈はそうでも、相対論が想定する光速移動の環境での時間旅行なら人体がもたないですけどね。
タイムスリップは先に人体への影響を研究しないと、昔、アメリカでやったフィラデルフィア実験のような悲惨な結末になりかねません。

相対論は、それまで普遍と考えられてきた「時間」はある条件下では変化することを示唆した理論でもあり、かつ、慣性系(宇宙)は一つの慣性軸(いわゆる世界線)で存在していることを証明しています。
いやいや、そうとも言いきれないと提唱されたのがエバレット解釈(他世界論、いわゆる平行世界の存在)ですけど、これはもともと、量子論の観測問題から生じた考え方であって「量子」とは原子核のようなミクロの世界を示し、量子レベルでは通常の物理理論が適用されない特殊現象を示したもので、通常の物理現象系(マクロ物理)である相対論と直接競合する理論ではありませんし、存在証明もされていない仮説(可能性)ですので念のために。

ちなみに、マクロ物理系と量子論や素粒子を扱うミクロ物理系と共通の法則を発見した場合は間違いなくノーベル物理学賞を受賞できます。
それぐらい、マクロ物理とミクロ物理はそれぞれ独立したものなんです。

時間が歪むことは理論上は分かっていても、実際に自らの意思で行きたい時間軸にタイムスリップする技術は現在のところ存在しません。
最終回、真理の父、永司が旬に向けた言葉は、様々な科学者は当時、非常識や不可能であったことに果敢にチャレンジして現在の科学を発展させた、タイムワープも現在では非常識でも将来は可能な技術となるかもしれない、創造力を絶やさずみチャレンジすることを告げています。
どうやら、マッドサイエンシストではなかったようでホッとしました。
ま、でも3年も音信不通にしていて嫁さんに殴られただけなら幸です。
普通なら失踪届け出されて、離婚ですか。
それと、失踪した時には赤ん坊だった真理の妹、理香がお父さんと呼んでくれたことも感謝しなきゃです。
さて、永司の言葉こそが「イノベーション」の意味で、その成功例こそがエジソンとなります。
「イノベーション」が活性化するための条件として「表現も自由」が保障された環境が絶対に不可欠であり、これからも技術立国日本を支えていく大きな要。
この作品は将来を担う子供達に科学の大切さとともに、創造力を養うことの大切さをメッセージに託した多くの子供達に観せる必要を感じる、近年類い稀な良作です。

10月1日追記
本来二個しか存在しないアーミラリーコンパスがなぜ三個存在する設定があるのかについて、思考実験をしてみます。

タイムマシンを製造して時間旅行をしたとします。
タイムマシンに乗って、過去に行くには現在自分が乗っているタイムマシンを製造している時間軸を通過することになります。
つまり、過去に遡ると、現在自分が乗っているタイムマシンと未来の時間軸に存在するタイムマシンの二台のタイムマシンが常時存在することになります。
このように、過去の事実が現在や未来を決定する考え方を因果律と言い、マクロ物理学上では普遍の原理として扱われています。
また、観測者の位置がどこにあるかで観測結果が異なる(相対関係)のは、相対論の基本中の基本でもあります。
あえてマクロ物理学とことわりましたのは、この物語は電磁気学を中心にマクロな物理現象がメインテーマで、量子論や素粒子論(ミクロ物理学)に踏み込んではいないことと、ミクロ物理学で扱う特殊環境では因果律が通用しない現象もありますので、念のために申し上げておきます。

このオチは、タイムマシンが存在しない過去に行けば、タイムマシン存在に至った因果関係もまた存在しておらず、タイムトラベルそのものが無効となる結論です。

上記を踏まえ、この物語では真理に与えたアーミラリーコンパスと、永司は過去をタイムトラベルしていて、永司視点では永司のアーミラリーコンパスは常時二個となり、真理の一個を合わせて永司視点では三個となります。
物語では設定されませんでしたけど、真理が過去に行き永司と同一の時間軸にいる場合、四個存在することになりますが、過去にいる真理から見た未来(和花達が過去の真理を見守っている現在)に存在するはずのアーミラリーコンパスは誰にも発見されていないので物語上は三個という設定ですね。

ゆえに、研究所にあったアーミラリーコンパスの存在は永司視点となります。
しかし、それがなぜ現在の時間軸にいる真理達に認識できたのかは疑問な設定ですけど、アニメ製作側の意図は同一時間軸に存在するはずのないアーミラリーコンパスの存在を設定し、それを利用した御影が過去に取り残される演出は、科学の大前提は因果律であり、それを破壊することは現在の科学では許されないことを視聴者に印象付けたかったんでしょうね。
ただ、物語は真理視点で進んでおり、永司視点への切替が唐突すぎて三個目のアーミラリーコンパスの存在設定は視聴者にはたいへんわかり難くなっています。
ここは演出にもう一捻り工夫が欲しいところです。
それにしても、タイムトラベルというファンタジーを道具に因果律普遍の原理を巧みに仕込み相対論の感触を掴ませる意図を裏設定としたのでしたら、たいへん良く練られたシナリオです。
これだけ、考察のやりがいがあるアニメも久しぶりですね。

10月19日追記。
最近ブログなどで本作品のシナリオを讃える評価を見かけて嬉しいですね。
本作品は「電磁気学」を素材に「タイムスリップ」を用いて「科学史」も同時に理解が図れるように工夫されていることと、更に、永司と御影の関係から投資と回収モデルでの科学研究と商業利用の在り方、そして「エジソン」の「起業」の意味から「イノベーション」の理念も視聴者に伝え、かつ「タイムスリップ」を単なるファンタジーとしてのツールではなく科学の可能性として表現した類稀なシナリオ構成です。
日頃、萌えアニメばかり観てレビューしている私も、本作品のレビューは本気にならざるを得なくなりました。
この作品で「電磁気学」を取り上げているのは、その先に「量子論」があることも多分示唆してのことでしょう。(マックス・プランク)
本文では「量子論」まで踏み込むには作品からの材料が足りませんでしたし、作品の対象年齢も考えてマクロ物理系のみでの説明に留めました。
しかし、本作品で設定したタイムパラドックス現象を厳密に説明するには、作品の本筋から離れて純粋に物理現象として一般的には馴染みの薄い「量子化」という特殊概念を用いての考察が必要となってきます。
ゆえに「量子重力理論」に基づく考察に踏み込むことになりますけど、宇宙の状態を示した相対論の「アインシュタイン方程式」の他に「量子論」、「波動関数」などで数学的に記述される「虚数時間」を理論物理学分野で取り扱う場合の難解な概念と、最低限パラドックスの本質を理解していないと、仮にレビューの限定字数で説明しても読まれた方はチンプンカンプンになるでしょう。
もっともタイムスリップの理論が量子重力理論に基づいている以上、ここ避けて通れませんけど、宇宙が存在しなければそもそも「時間」も存在しませんので「時間」とは何かの命題クリアは必須要件で、更にトラップとして「虚数時間」という実感不可能なことも理解する必要があり、極めてハードルが高いのも量子重力理論の姿です。
多くの科学者を悩ませた「虚数時間」の概念は「時間」の始点である宇宙創成の起点と密接に関わるために、ここの段階でつまずくと相対論が示すタイムスリップ現象の基本である「時間的閉曲線」を取り上げて本作品が採用したパラドックス干渉の「ロイド仮説」を説明しても読まれているうちに嫌気が差すとも思います。
ここでは簡単にホーキング博士が示した虚数時間の考え方だけを書いておきます。
『虚数時間の存在議論は無意味であり、存在を仮定することが論理展開に有利であれば研究に活用すべきである。』

さて、この作品の凄さは、言語で説明するには高度なことを本作品では「同一時間に存在してはいけないアーミラリーコンパスのパラドックス」を設定し、現実的であるか否かは別にして量子のゆらぎを異常現象で現象で視覚化した「ロイド仮説」をアニメだけで表現したこと。
パラドックス干渉の正体が科学的根拠がある「ロイド仮説」であることを理解した瞬間、設定考証の厳密さにあらためて驚嘆しました。
「ロイド仮説」の概要は知っていましたけど、この作品を解読するために、まさか論文まで読むことになろうとは思いもよらなかった収穫です。

ここから先はタイムスリップとパラドックスに対するヒントのみ提示しますので、興味がある方は調べてみて下さい。
なお、科学とは自分が知りたいことのみ理解できるという都合のよい体系にはなっておらず、ニュートン力学から順序よくしっかり積み上げることの重要性も本作品のメッセージに含まれていると思いますよ。

★一般相対論「重力場方程式」の解である「時間的閉曲線」から「アインシュタイン・ローゼンブリッジ(ワームホール)式」を導きタイムマシンの理論としたソーン理論。
★ソーン理論が成立した場合のタイムパラドックスの回避問題。
★タイムパラドックスの回避
a)アニメの設定によく使われるエヴェレット解釈の一種である世界線分岐でパラドックスは回避されるとする「ドイッチュ理論」。
b)タイムトラベラーが前回追記の思考実験や親殺しなどの重大な自己矛盾に近づくと、過去改変を妨げる「量子的ゆらぎ」が高確率で発生するとした、いわゆる量子検閲官説の「ロイド仮説」。
この仮説の実証実験は既に行われ成功しており、成果はコーネル大学の論文掲載サイトに『arXiv:1005.2219』(英文)で収録されています。
★『時間順序保護仮説』
ホーキング博士によりソーン理論は不成立である旨立てられた仮説。
ホーキング博士の仮説によると、ソーン博士のワームホール計算では行ったきり帰られない状態となり、実際ソーン解は他の科学者からも検証の結果、過去に行くタイムトラベルモデルとしては非現実と指摘されています。
しかし、ソーン解に問題があっても、ワームホール利用によるタイムトラベルの理論全てが否定されたものでもありません。
したがって、ホーキング博士の理論は「仮説」として限定されます

投稿 : 2016/10/20
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サンキュー:

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