しもん さんの感想・評価
3.2
物語 : 3.0
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
大衆派エンターテインメント
好きな映画は独りで観たい派には、きっと向かない作品。
他人と内容を共有しながら映画を楽しむには、すごくいい作品だと思う。
あの子がよかった、ここのシーンが感動した、あそこの風景描写がいい。そういった会話が弾むような工夫がいっぱいある。キャラクターもみんなどこか可愛げがあって、ストーリーもどんどん展開して飽きがこないし楽しいし、絵だってとてもきれい。物語の背景も深みがあって、突き詰めていけばきりがないほど。でも全体としてよくまとまっていて、すっきりしている。
観た後には、誰でもどこかはよかったと言えるようになっている。
正直なところ、僕はあまりこの作品を好きになれそうにない。たぶん、数か月後にはほとんどの内容を忘れ、数年後には全て忘れていると思う。強烈な感動がなかった。メッセージみたいなものも感じなかったし、独自の思想が込められているような感じもしなかった。何かの実感を得ることもなかった。心の中に何かを残すには、あまりに印象が薄すぎる。観て後悔はしないし、楽しいのは間違いないんだけれど、心に引っかかるものがない。なにか満足してしまった感じがして、繰り返し観ようという気が起きない。個人的にはそんな作品。
この作品の特徴は、大衆(現代の日本人)に向けたエンターテインメントにこだわっているところだと思う。
単に「俗っぽい」という言葉では片づけられない、並々ならぬこだわりがある。そう考えると納得のいくところがいくつかある。
まずは作品の舞台が田舎と都会の両方であること。それも双方を同格として描いている。どちらかに偏ることなく、かつ丁寧に扱っている。
主人公と言える人物が男女2人であること。これも同格の関係で、どちらかが特別ということはない。
時空のずれも同様で、どちらかを基準としてもう一方を過去(あるいは未来)として描くことをしていない。どちらも現在として見せている。
これらは、視聴者の属性(性別、年代、住む場所など)を限定しないための工夫ではないだろうか。
物語の主軸が万人受けする(?)ラブコメディ。しかも、いわゆるオタク的な形式化された「萌え」などから離れた方法で描いている。また、展開も重すぎず軽すぎない。随所に笑いを入れてバランスをとっている。これは視聴者の趣味を限定しないための工夫か。
敵対するものとして、悪者を作らず、あるのは災害。なんとなく日本的。和の心を感じる。これも工夫かも。
現代の日本人は価値観が多様化しているといわれる。個人個人それぞれの立場や主義、憧れ、生き方。何にしてもそれぞれあっていい、認め合おう。そんな風潮がある。とてもいいことだと思う一方で、しかしそれは人と人との価値観の共通項を減らす結果になっているように思う。つまり共感の機会が減っている。
この作品はそういった現代の状況へのアンサーなのかもしれない。価値観の異なる人同士でも楽し気に語り合える、みんなの共通項。これを実現しようとした作品なのかもしれない。