takarock さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
映画監督新海誠としての挑戦
「興行収入100億円超えか!?」なんて報道もされていますが、
もし、そうなれば日本国内歴代邦画興行収入ランキングベスト10に
ランキングされるでしょう。つまり、大・大・大ヒット作品です。
9月上旬の週末にちょっと時間ができたので、
「どれどれ、ちょっと観てみるか」なんて気持ちで映画館に足を運んでみたら、
映画館スタッフ「満席です!」
ええ・・レイト・ショーだからいけると思ったのに・・・じゃあ次の時間帯は?
映画館スタッフ「満席です!!(ドヤァ)」
一体なんなんだよぉぉ!!お前らそんなにアニメ好きだったのか??
ジブリじゃねーんだぞ!!
そう、皆アニメ好きなんです。本当はね。
でもリアルでそれを言うと、
アニメ好き=萌え好きというレッテル張りをされてしまうので皆口を噤むんです。
だからこういう誰に対しても観たことに引け目を感じない、
所謂国民的娯楽としてのアニメへの需要は非常に高いのです。
宮崎駿監督が引退してからその傾向はより顕著になっています。
「ポスト宮崎駿」・・・こんな言葉をTVの情報番組なんかでたびたび耳にすることがあります。
これは、国民的娯楽としてのアニメの牽引役となるべき次なる担い手は誰か?ということですけど、
細田守監督であったり、
そして本作「君の名は。」の大ヒットにより新海誠監督が候補として挙げられていますね。
個人的な感情を言うと、今敏監督がご存命ならば、
その候補として名前を挙げられていたでしょうし、
今敏監督こそが・・・と思っているところもあります。
そもそも私の中で、
これまでは新海誠氏が映画監督として評価の俎上に載せられることはありませんでした。
新海誠氏は映画監督でなく、映像作家だと認識していたからです。
登場人物のモノローグを基調とした叙情的な映像美。
日常的な動作を忠実に映像で再現し、きめ細やかな演出もとても素晴らしいのですが、
物語そのもので魅せるというよりも、
余白を残し観客の感性を刺激し、各々が勝手に物語を紡ぐという、
いわばミュージック・ビデオのような作りなんですよね。
物語を観客に委ねてしまっているという言い方もできるかもしれませんが。
それはやはり私の中では映画というよりも映像作品であり、
新海誠氏の作品はそういうものだと思っていました。本作「君の名は。」を観るまでは!
では本作を映像作品ではなく、映画であると感じた点はどこにあるのか?
それを3つのポイントに分けて語りたいと思います。
ここからはネタバレありです。未視聴の方は絶対読まないで下さい。
{netabare}①「明確な起承転結」
これは今更多くを語る必要はないと思っています。
おそらく大多数の方がここが「承」のパートで、ここが「転」のパートだと
はっきりと認識できたと思います。
新海誠監督が話作りに慣れていないのか、
はたまたこれまでの作品との違いを強調する為なのか
真偽の程は定かではありませんが、それほど分かりやすい構成でしたw
「起」の部分である瀧(たき)と三葉(みつは)の入れ替わりのやり取りが冗長とか、
「結」の部分である瀧と三葉の再開まで焦らしすぎという批判もあるでしょう。
そして、おそらく本作の最大の批判ポイントは、
「3年の時差があれば、それに気づかないのはおかしいんじゃね?」ってことでしょう。
うん、おかしいですw このように本作には結構欠点がありますw
でもそれらの欠点を補って余りあるくらい「承」や「転」のパートで惹きつけられましたし、
映画として話で魅せるということはしっかりできていたと思います。
まぁこの辺は個々人の感じ方によりけりでしょうね。
②「観客の喜怒哀楽を引き出す作り」
映画の魅力いうのは、極端な話、
如何に観客の喜怒哀楽を引き出すかということに尽きると思います。
これまでの新海誠氏の映像作品は、主に「哀」という感情を引き出す為の映像作品という
印象がありました。
でも、本作はしっかりと映画的な笑いも組み込んできています。
前述したように瀧と三葉の入れ替わりのやり取りが冗長と感じた人もいるかと思いますが、
私はこのパートを結構楽しんでいました。
それは随所にクスッと笑える映画的な笑いが散りばめられていたからです。
瀧が三葉と入れ替わった時の「おっぱいもみもみ」なんかはその典型例ですねw
新海誠監督ってこんなシーンも取り入れるんだとある種新鮮な驚きも感じました。
笑わせる所で観客を笑わせ、泣かせる所でしっかりと泣かせる。
これこそが映画の醍醐味なのです。
③「物語に新海誠監督のエッセンスがしっかりと乗せられている」
これまで散々新海誠氏の作品は映画ではなく、映像作品だなんてことを言ってきましたが、
実は物語重視の作品もあります。
2011年に公開された「星を追う子ども」です。
この作品は、新海誠監督作品の中では異色中の異色と言われている作品なんですけど、
まぁぶっちゃけなんちゃってジブリです。話もまぁ退屈。
何より一番駄目なのが新海誠監督らしさが完全に埋没してしまっているところです。
物語性と新海誠監督の一番の長所である叙情的な映像美は相容れぬものなのかとも思いましたが、
本作「君の名は。」では起承転結がしっかりとある物語に
新海誠監督のエッセンスがしっかりと乗せられています。
本作はまさに、新海誠監督にしか作れない新海誠監督の映画作品なんです。{/netabare}
本作を観て「映画監督」としての新海誠氏の名が、
私の頭の中に鮮やかに刻まれました。
本作は、「新海誠監督の集大成となる作品」と言える作品でしょうし、
事実、これまでの作品の遺伝子を至る所で見受けることができます。
従ってその解釈は間違っていないと思いますが、
集大成であると同時にそれは始まりでもあるのです。
新海誠監督は現在43歳。
奇しくも「風の谷のナウシカ」が公開された当時の宮崎駿監督の年齢も43歳。
新海誠監督の「映画監督」としての長く険しい旅路は、
まさにここからが始まりなのかもしれませんね。