岬ヶ丘 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
noblesse oblige...
高校生の時に見た深夜アニメの中で、最も強く影響を受けた作品の一つ。ノイタミナ作品でもいまだに折に触れて、見返す思い出深い作品です。
当時のアニメの中では珍しく社会派の要素が多く、大人も楽しめる設定です。アメリカ同時多発テロやリーマンショック、年越し派遣村などの雇用問題など、当時の世論を反映していると感じます。当時の閉塞的な空気やこの国の未来の行く末を描きたいという、強いメッセージ性が随所に見られます。皮肉なことに作中の2011年は、現実世界では東日本大震災が発生し、今なおその傷跡は完全に癒えていません。
またノブレス携帯やセレソン、エデンシステムnoblesse obligeというメッセージなど、当時としては、あるいは今見ても前衛的で面白い設定が、作品の核となっています。このミステリアスな設定が作品を彩り、先の読めない展開を盛り上げてくれます。とはいえテレビシリーズですべての謎が解明されたわけではなく、もう少し丁寧に設定を生かして、物語やキャラクターと結び付ければ、さらに魅力的な作品になったと思います。初見では理解できない部分も多く、補足的な資料もあると助かります。音楽面も素晴らしく、特にEDは毎回作品の余韻に浸らせてくれました。
私見ですが、単純にこの作品は非常に面白いと思います。ただ、今もこの作品を見て「単純に面白いな」、と視聴者が感じるだけでは、この作品の本当の価値はまだ見出されていないと感じるのです。貧困・格差・安全保障・雇用、今もこうした話題がニュースで流れない日はありません。問題は解決していない、この国の未来は変わってるようで、変わっていないのかもしれない。作品の中での彼らの物語は、今もなお続いているのではないでしょうか。
この作品が本当の意味で楽しまれるためには、「こんな時代もあったよね」「こんな作品があったんだ」と私たちが社会を変えていった結果、何かしらの未来にいるという、前提が必要だと思います。今私たちが生きている今は、彼らがいた未来に確かにいるのだろうか、そう考えると胸を張ってイエスと答えられない自分もいます。だからこそ、この作品を面白いの一言で終わらせてはいけないのだと感じます。
この国の過去に、今に、未来に絶対的な正解はないのかもしれない。それでも常に考え続けていきたい、そう思わせてくれる作品です。