「Re:ゼロから始める異世界生活(TVアニメ動画)」

総合得点
91.2
感想・評価
4081
棚に入れた
16801
ランキング
39
★★★★☆ 4.0 (4081)
物語
4.1
作画
4.0
声優
4.1
音楽
4.0
キャラ
4.0

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ネタバレ

kurosuke40 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

魔女に寵愛されし心の弱さ

原作未読

目糞鼻糞を笑うレビューになります。

スバルは弱い。
(相対的に)腕っぷしの強さもなければ、思慮深くもない。
ましてや権力や財力などもなければ、鋼の精神力や心の器の広さも持ち合わせていない。
そんな彼に与えられたのは死んでも過去に戻るタイムリープ能力で、
この作品は不相応な能力を与えられた弱き人間の悲劇でもあり喜劇でもあるように思う。
ちょうど『地獄のミサワ』からギャグ成分を抜いて残る人の心のウザ……弱さを、
スバルという心弱き人間を介してギャグにすることなく真正面から捉えていてる。
この人の心の弱さを見せつける悪趣味な物語の構造を作り上げたのは魔女だけど、
きっと魔女の原型はクトゥルフ神話のニャル様なのだろうなと思えますね。

追記:最終話まで見て
さすがに愉悦部的喜劇ではなく、丸く綺麗に落としましたね。
悲劇で喜劇を見せつけた部分からその逆へと最後は向かう脚本でした。
これを見せつけれるのはやはり俺TUEEE系主人公では無理でしょうね。


スバルは死に戻りの能力で、何度も(文字通り)死ぬ思いをして、
エミリアたちを死の運命から救ってきた。
それは確かに事実で、回数があと何回残っているのかわからない状況下でのタイムリープに
彼の心労は計り知れない。
しかしながら、タイムリープもののお約束でそのことを知っているのはスバル(と魔女)だけだ。
他者に死に戻りを話すことも魔女に禁じられており、他の誰も知りえることはない。きっと推定されることもない。
前提としてスバルにはそのような心の重荷があった。

スバルはエミリアの性根の優しさに惚れていて、
エミリアを助けてあげたいという思いが彼の行動原理だ。
ただし、気持ちだけが先走り、考えるより行動する性格から、
スバルはただただ場当たり的に行動にでてしまう。
私が助けたいと思いがあるという理由だけで、行動を決定する。
彼は自分の気持ちの都合だけで動いている。
例えば、背伸びしたい子に甲斐甲斐しくお世話をするのはお節介だということを彼は知らないか、考慮をしないだろう。

この作品は2クールも使って、スバル視点からの物語なのに、惚れたエミリアに関する核心的な情報が少なすぎませんか?
死の匂いが濃厚なスケジューリングで余裕が少なかったことは認めるけど、
エミリアが背負っているものは何で、何を望んでいるのか。
彼女がなぜそんなに人に優しく接しようとするのか。その優しき心の裏も知らない。知ろうともしない。
エミリアが意識的にも無意識的にも望んでいることがわからなければ、
勝手に行動すると偶然に一致する以外にはありがた迷惑になってしまう。
……そして、なってしまった。
謁見の場でのスバルの行動を「エミリアが普通の人であることを周知した」と肯定的に評価した老人がいたが、
彼と彼女の関係性を知っている読者の私からしたら、とても肯定できないね。
彼女の思いも尊重しつつ、彼女の身も守る自我を通す覚悟なら、もっと陰から見守らないと。

かくしてスバルは「こんなにもエミリアを助けたいと思って行動しているのに、相手はわかってくれない」と燻る。
冷たい飲み物が欲しいと思っている相手に、熱い飲み物をあげて相手が喜んでくれないと嘆いている感じだ。
そして上述のスバルの心の重荷も重なって、スバルは自分の努力を認めてほしいという思いを塞ぎ込めず、
本心からエミリアを助けたいと思っているのに、
こんなに尽くしている自分の事を理解してくれないエミリアへ侮蔑の言葉を投げかける。
結果的にエミリアに理解されることはなく、相手を全否定し傷つけ自己満足だけで終わると分かっていても、
それをぐっと押し込めることができない。
侮蔑の言葉を投げかけるときのスバルの顔の作画が、彼の浅ましさ、愚かさ、自己満足感を物語っていて凄みがあった。
彼はここにきても自分の都合しか考えていない。
これは心の弱きものから見ると悲劇だが、心強きものから見るとこれは心と頭の弱さが織りなす喜劇で、
(fateの)王様もご満足いただけているだろう。

そして何回か先のループの末にスバルは放心状態になる。
だが、そこでペテルギウスが指摘した「狂気に失礼ですよ」には、本当に乾いた笑いが止まらなかった。
スバルの心労と相手に理解してほしいという欲求もよく理解できる。
だが、こいつは言葉で伝わらないなら、態度で「頑張ってました」アピールをずっとしていたのだ。
他人に「頑張っているんだね」と労わってほしくて、他人に求め続けている。
そのアピールだけで、回数制限が分からないタイムリープの一回をほぼ丸々無駄にした。
最後の一回かもしれないのに。
なんという愚かさ、とこれには王様もニャル様も大満足だろう。
私は身につまされる思いで、苦笑いしかでないんだけど……。

その後、スバルの自信を地に落としたあと、レムによる綺麗なタイトル回収があって、
作品による心弱きものへの対応策として掲示されたのは「他者による理想像」に沿って行動することだった。
理想像に沿って生きるというのはとても辛いことだけど、0から始めるなら十二分に機能するってことだろうか。

レムを見ると、やっぱり人が本当に感謝し愛情を持つのは、望んでもないのにいつの間に命を救ってくれた人よりかは、
昨今の自身の抱えていた問題を導いて解決してくれて人なのでしょうね。
そして実はそれには強さというのは必須ではないのかもしれない、なんて。


私も心の強い人間ではないので、スバルの事をやり玉にあげて、とやかく言う資格はないのだろうけど、
それでも参考として、心の強さや弱さとは何ぞやと考えさせられる作品でした。

もうちょっとわがままに付き合ってくれたレムを労わってあげてくれないかな。

思ったより長くなってしまいました。
ここまで、ご精読ありがとうございました。



追記:最後らへんはちゃんと主人公らしくエミリアに望んだ機会を提供しましたね。でもやっぱりループの経験から知ることができたわけで、できればちゃんと話し合ってほしかったな、と私のわがまま。だって私たちはループできないもんね。

にしても全体を通して、ループでも同じことをなるべく繰り返さないかつ端折りすぎない、端折り方、見せ方が本当に絶妙で上手い脚本だな。



追記:最終話まで見て:ペテルギウスとエミリアについて
愉悦部解散!
私が上述した点はあくまで落差を見せつける前フリで、
愉悦部的な見方が主題な作品ではないですね。(当たり前だ)
ただあの心の弱さがこのアニメ全体の脚本の本筋では間違いないでしょう。
スバルの思い強さが自分勝手さで空回りする様を改めて考えてはいかがでしょうか。
最後はちゃんと話し合ってくれてうれしかったですね。

ちょっと面白かった点についてだらだらと。
ペテルギウスとエミリアについて。

ペテルギウスは完全に異邦人(周りの目を一切気にしない)になっていて、
精神力で言えばべらぼうに強い。
しかしながら、その力の源は魔女への信仰であり、(どうしてそうなったのか過程はさっぱり想像できないが)
魔女に寵愛をいただくことを第一に行動している。
(この第一というのは「生きる」ということより上である。要は魔女の寵愛ためなら死ねるのだ、彼は)
しかしながら、この「寵愛をいただく」というのも、
こうすればいただけるはず!という彼の思い込みからの行動になっていて、
魔女が本当に何がしてほしいのか、彼は知らないのだ(一切機会がないからこっちはしゃーないと思うけど)

スバルとペテルギウスは敵対しているけど、実はとても似た者同士で、
彼もまた、エミリアのことを知らないスバルと同じく、怠惰だったのです。
(最後にペテルギウスを撃退できたのはよくワカランが、魔女とペテルギウスの間を持つのが福音書なので、
その繋がりの切れ目が彼の終わりなのでしょう。彼は生きるより大切なことを奪われたのですから。)

次にエミリアについて。
初見時のエミリアの印象は、非現実的な優しさを持っている人物でしたね。
エミリアはどこか損得勘定と他人を手助けすることの現実的な釣り合いが取れていない感じで、
かといって、人助けして感謝してもらえること等からの喜びから手助けしている感じでもない。
(拒否られて苦い経験の方が多いだろう)
とりあえず困っている人がいたら自分の都合を押しのけて助けるという方針を取っていて、
正直キャラクターっぽくて、等身大の人を描いていないなという印象でした。
スバルの印象と逆ですね。スバルは、その心の弱さは人っぽいです。

ただ終盤でやっとわかったのですが、
エミリアはそんな非現実的な優しさを持つ女性ではなくて、
確かに性根は優しい方でしょうが、彼女は「優しく強くありたい」女性だったんですね。
あるべき自分の姿のために、人助けするという方針を取っている。
だから彼女は人助けするときは笑顔ではなく、どこか決意をしたような顔で人助けする。
拒否られようが助けようと前に出る。
(そしてどこか頼りない感じもする)

自分のために人助けすることの是非はおいていて(この点は『灰羽連盟』の後半のテーマでしょう)、
私が彼女に惚れるとしたら、ありたい姿のために歩みをとどめない姿でしょうかね。
スバルには悪いけど、優しさに惚れるのはちょっと表面的に思えてしまう。
もしかしたら言葉にできないだけで、スバルもちゃんと感覚的にわかっているのかもしれませんね。


まぁまずエミリアは意思決定の蚊帳の外なのをとても不満に思っているので
ちょっとは相談をもちかけてあげたいね。うん。




20話ぐらいときの愉悦部的な蛇足
{netabare}
正直「狂気に失礼ですよ」以外はほとんど覚えていないぐらい衝撃的で、
ペテルギウスにスバルが他者の目を気にしていると指摘されるまで、
普通に「スバル狂っちゃったかーご愁傷さま」ぐらいに見てたのだけど、
同情心を誘っていたと解釈するとなんか一気にこみ上げるものがありましたね……。
実際に彼の気苦労はわかるのだけれども。

自分のしっぽを追いかけてくるくる回る犬を見るのと同じ程度で、
心の弱い人を見てこう愉悦と笑い飛ばせる感覚は、
ニーチェがギリシャやローマの古典作品にはあって、
(ニーチェの)現代にはなくなってしまっている感覚と指摘したやつなんじゃないかなと思った。
彼の思想的にたぶん。

こういう見方ができるようになってしまったのは
fate/zeroで王様に直々にレクチャーいただいた結果で、
それでもやっぱり私は理解はできるけど、ちょっと悪趣味だとは思う。
そういや王様はシュメールだったな。なんか納得した。 {/netabare}

投稿 : 2016/10/19
閲覧 : 273
サンキュー:

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