krgy さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
短時間ではありますが楽しめました。
庭園で織り成すタカオとユキノの物語はとても綺麗で、淡い恋物語でした。お互い惹かれあっていく過程もよかったですし、片方は恋心、片方は感謝と、好きという気持ちが違っているのも十分伝わってきて感情移入しました。終盤にあるお互いの本音をぶつけ合い、抱え込んでいるものを曝け出すシーンは特によくて、何度見ても涙してしまうほどでした。
また万葉集の短歌を用いたのもよかったと思います。
鳴(な)る神の 少し響(とよ)みて さし曇(くも)り 雨も降らぬか 君を留(とど)めむ
⇒雨が降ったら君はここに留まってくれるだろうか
鳴(な)る神の 少し響(とよ)みて 降らずとも 吾(わ)は留(とど)まらん 妹(いも)し留(とど)めば
⇒雨なんか降らなくてもここにいるよ
とてもいい短歌ですよね。この短歌によって、雨とは関係なしに会いたいという気持ちが際立ったように感じました。
ミスリードや伏線の張り方も見事でしたね。衝撃的ではないですが純粋にうまいと思いました。ユキノがタカオの制服の校章を見て「会ってるかも」と言った時に
(もしかして学校の先生じゃ・・・で短歌ふっかけるってことは古典?)
と思ったんですけど、序盤でタカオのクラスの古典は初老の男性教師(タケハラ爺)の描写があってユキノではなかったんですよね。でも後半で別なクラスの古典の先生だと判明し、ミスリードにひっかかってしまいました。
あとは体育教師の伊藤先生。
ユキノの元彼なんですが、序盤に一瞬だけ出ていたんですよね。関東の梅雨入り後のシーンにて、タカオが教師に呼び出され「呼び出された理由はわかってるんだろうな?」と言われる描写がありましたが、あれ伊藤先生だったんですね。気づく人は後ほどあるユキノの元彼との電話で
(あの教師と声一緒ってことはユキノはタカオと同じ学校・・・?)
と思うんじゃないでしょうか。自分は3回目でやっと気づきました(笑)
それ以外にもユキノの部屋に置いてある万葉集や大辞林、漢和中辞典などからも教師を匂わせる描写がありました。「あっ!!」と驚くほどではないですが、とても丁寧に作られていますよね。そういう細かい部分での気遣いが本作品から感じられました。
新海誠作品の魅力でもある切ないBGMと美麗な映像についてですが、二人の世界観を思う存分引き出していてよかったです。物語に合っていましたし、言葉不要で映像とBGMのみで表現しているのもいくつか見受けられ、頭の中で想像する楽しさもありました。特に序盤にあった関東の梅雨入り後のシーンで言葉なしでタカオとユキノが楽しそうに話している描写は微笑ましかったです。
ここからはタカオとユキノがお互い惹かれていく過程を物語と絡めながら書きたいと思います。
始めタカオはユキノのことを午前からビールとチョコ食べる変な人って印象でした。ですがまだ誰にも言ったことない夢の話(靴職人)を打ち明けるほどに変わりましたよね。梅雨入り時には夜寝る前と朝起きる瞬間、気づけば雨を祈り、「あの人に会いたい」と思うほどに惹かれていきます。
ユキノも始めは電車に乗れず庭園に向かう時「ふぅ・・・」と溜息をついていました。でもタカオと会うようになってから、雨が降っていると嬉しそうな表情で「雨だ」とつぶやいてますよね。その日の朝、卵割るのを失敗している描写から料理下手ということと「早く会いたい」という気持ちが表れているように思えました。また電車に乗らず庭園へ向かう時の表情にも僅かですが変化が見られました。タカオが靴作りで悩んでいるシーンで「わたしね・・・うまく歩けなくなっちゃったの」と打ち明けたことからも距離が近づいていることがわかります。
タカオが靴職人を目指していることを聞いて、ユキノは靴の本をプレゼントしたり、タカオが「誰のかは決めてないけど・・・女性の靴です」とぼかしているもユキノのために作るのがみえみえだったり、そしてそのことをユキノも勘付いていたり・・・こういう場面もありましたが見ていて心が温まりますね。
仕事も年も抱えた悩みも名前さえもわからない相手に惹かれていくタカオ
タカオのおかげで自身の状態が徐々に改善していくユキノ
お互いがお互いを求めるのも自然なことだと思いました。
その後の梅雨明けで会える口実を失って、より一層二人の距離感が近いことを表していましたよね。ユキノははっきりと「梅雨が・・・明けてほしくなかった」と言っていますし、誰かが来た時に「ハッ!?」として顔をあげることからもタカオに会いたいと強く思っていることがわかります。
またタカオも
「あの人に会いたいと思うけれど、その気持ちを抱えこんでるだけでは、きっといつまでもガキのままだ」
「あの人がたくさん歩きたくなるような靴を作ろうと、そう決めた」
うまく歩けず前に進めなくなったユキノのために、タカオはそう決心します。この時点でタカオにとってユキノはとても大事な人へと変わったんでしょう。
会えないまま夏休みが明け、タカオは学校に行き、そこで初めてユキノが自分が通う高校の教師であることが判明します。この時のタカオは複雑な感情を抱いていたことでしょう。打ち明けてくれなかった悔しさもあると思いますし、ユキノがいじめられていたことに対する怒りもありますよね。3年に殴りこみに行くほどですから(結果返り討ちにあいますが)
後日短歌の意味を知ったタカオは雨が降っていない時に庭園を赴き、ユキノに会いに行きます。ここで序盤にあった短歌の返し歌です。待っているのはユキノなのに「雨が降ってなくともここにいるよ」と返し歌をタカオが歌うというのはおもしろい演出だと思いました。
そして雷と大雨で身動きがとれなくなったのも、いつまでの二人だけの世界観に浸りたいという気持ちが表れてるような気がしました。お互いずぶぬれなのに楽しそうでしたし、とてもいい演出でした。
雷と大雨によりずぶぬれになった二人はユキノのマンションに向かい、ユキノの部屋で幸せなひとときを過ごします。
タカオもユキノも「今まで生きてきて、今が一番幸せかもしれない」と思うほどに心が満たされていました。
そこでタカオが「俺、ユキノさんが好きなんだと思う」と告白をします。ですが教師と生徒の関係であることや、タカオの好きと自分の好きが一緒ではないことをユキノは気づいていました。なので「ユキノさん、じゃなくて・・・先生でしょ?」と受け流してしまいます。
「私はね、あの場所で、一人で歩けるようになる練習をしてたの」
「靴がなくても」
「だから・・・今までありがとう・・・秋月くん」
そう言いユキノは来週引越すことを話します。タカオは秘めた想いを打ち明けたのに、それに向き合ってくれなかったことが悔しくて帰ります。
ユキノは自身の行動でタカオを傷つけたこと、このままでは望まない別れ方をしてしまうことに気づいて後を追います。階段付近にいたタカオは、追ってきたユキノに対し感情を爆発させます。
「最初からあなたはなんだか・・・・っ・・・・・・嫌な人でした」
「朝っぱらからビール飲んで、訳の分からない短歌なんかふっかけてきて」
「・・・っ!・・・自分のことは何も話さない癖に、人の話ばっか聞きだして」
「俺のこと生徒だって知ってたんですよね?」
「汚いですよそんなのって!!」
「あんたが教師だって知ってたら、俺は靴のことなんてしゃべらなかった!」
「どうせできっこない、叶いっこないって思われるから!!」
「どうしてあんたはそう言わなかったんですか!?」
「子供の言うことだって・・・適当に付き合えばいいって思ってた!!」
「俺が何かに・・・誰かに憧れたって、そんなの届きっこない叶うわけないって!!」
「あんたは最初からわかってたんだ!!!」
「だったらちゃんと言ってくれよ!!邪魔だって!!」
「ガキは学校に行けって!!俺のこと嫌いだって!」
「あんたは!!」
「あんたは一生ずっとそうやって!!」
「大事な言葉は絶対に言わないで!!」
「自分は関係ないって顔して!!」
「ずっと一人で!!生きていくんだ!!!」
渾身の叫びですよね。声優の入野自由さんの演技も素晴らしかったです。
ここで天気雨。からのユキノが足を踏み出し泣きながらタカオを抱きしめます。
「毎朝・・・・・・毎朝ちゃんとスーツ着て・・・学校に行こうとしてたの」
「でもこわくて・・・どうしても行けなくて」
「あの場所で・・・私・・・あなたに救われてたの!!」
ユキノが抱え込んでいたものをタカオにぶちまけるこのシーンは何度見ても泣けます。泣いても喚いても叫んでもいいから本音をぶつけることのよさがこのワンシーンに凝縮されています。
タカオはユキノに恋してたことを伝え、ユキノは救ってくれたことに対しての感謝を伝えたとこで秦基博さんの「Rain」が流れるのはずるすぎます。曲が流れている間涙が止まりませんでした。最後の曲入りまでの流れとエンディングは本当に大好きです。
エピローグにて
タカオは靴を完成させ庭園の思い出の場所へ置き
「歩く練習をしていたのは、きっと俺も同じだと、今は思う」
「いつかもっと、もっと遠くまで歩けるようになったら」
「会いに行こう」
そう言葉にして幕引きです。靴を完成させるもユキノへ送らず思い出の場所へ置くこと・・・それは自身の失恋に対して受け止め、昇華することができたということでしょうか?様々な考え方が脳内に浮かびそうな終わり方だったと思います。
正直1回目に見たときは背景がきれいとか、BGMがいいとか、そんな感想しか出てこなくてそこまで感動しなかったんです。でも複数回見ることでタカオとユキノの気持ちが理解できるようになり、どんどん惹かれ涙が出るほどに感動する作品に変わりました。46分くらいの短時間ではありますが非常に楽しめる内容でした。
また本作品から大切な存在に対して、本当に伝えたいことや言葉は内に秘めず、相手に届けることが大事だと教わりました。物語終盤のタカオとユキノのように抱え込んだままにせず、本音をぶつけていきたいですね。
※誤字・脱字・誤用ありましたらすみません。また個人の解釈なので間違った捉え方・考え方があるかもしれません。長文失礼致しました。