「君の名は。(アニメ映画)」

総合得点
91.2
感想・評価
2514
棚に入れた
11510
ランキング
39
★★★★★ 4.1 (2514)
物語
4.1
作画
4.5
声優
3.9
音楽
4.2
キャラ
4.0

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ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

記録と記憶を越えて

新海監督の原作小説は未読。
外伝小説『君の名は。 Another Side: Earthbound』は購読済。

大騒ぎになる前に、公開初週に観に行って以来、2回目の鑑賞。
流石に公開約八ヶ月も経つと、近所の映画館も一日一回上映に……。
ブームもある程度は収まり、観客もまばらな劇場にて、落ち着いて再見に挑みました。

{netabare}
本作は観る者を特別な気分にさせてくれる映画だと改めて思いました。

これまでの新海作品には珍しかったラブコメやギャグといった娯楽要素。
作画や音楽の豪華さといったエンタメ精神からもそれを感じますが、
観ていると、自分の存在や、これまでの出会いなどの人生経験が、
かけがえのない運命的なものに思えて来る点に、特にプレミア感を覚えます。


近年、多くの人々が存在意義や根拠を探しているのか、
現代人は記録や記憶に執着していると感じることが多々あります。
あれから何年~といった類いのニュースは世の報道の数パーセントを占める勢い。
記録や記憶の再確認に多くの時間が費やされています。

忘却しないように躍起になること自体は、
大切なことですし、人間らしい行いだとも思います。

けれど一方で人々はやがて記録は色褪せ、記憶も風化するものと薄々気が付いている。
そのことが振り返りを執拗なものにしているのでは、とも感じます。


本作においても記録と記憶は脆く儚いものです。
夢の中で入れ替わった男女が互いの存在を証明するのに依拠した、
スマホ上の日記は文字化けして消滅し、
脳裏に刻み込んだあの人の名は、
朝起きたら消えてしまう夢の如く霧散してしまう。

二人離ればなれになって、
たとえ記憶が散り散りになったとしても想いは残るのだろう。
けれど個々人の強い想いだけでは時に次元レベルで男女が隔てられる、
新海監督が仕掛ける苦境を乗り越えることはできない。
これまで幾多の新海作品で表現されてきた悲哀の構図……。

そこを本作では“ムスビ”という設定で乗り越える筋書きを立てて来ました。

宮水神社では千年以上の歴史を持つとされる伝統儀礼が継承されていますが、
二百年前、“繭五郎の大火”により、儀式の意味を確認できる記録や伝承は、
ことごとく消失してしまっている。
後には古より継承されて来た舞の手順や口噛み酒などの形式が残るのみ。

けどこうした文字以前の神を下ろす類いのしきたりにこそ、
記録や記憶では太刀打ちできなかった、
時空の壁などの新海監督が仕掛ける逆境の無理ゲーを
クリアするための絆を繋ぐ力がある。

これらの可能性を、日本の古典等から発掘し、
プロットとして構築した点が、私にとっての本作最大の評価ポイントです。


思えば、人間一人が生まれ出ずること自体、
両親二人の出会いがあって、命が育まれるという、
天文学的な確率を乗り越えた、奇跡的な出来事であるはず。

普段、忘却しがちなこの奇跡。
千年かけて多くの人に紡がれた“ムスビ”に
運命付けられた二人の出会いを観ていると、
ふと自分の存在と人生のかけがえのなさを思い出し、
感慨深い気持ちにさせられます。

本作の記録的なヒットの要因は、鑑賞者自身の存在や人生経験をもプレミア化させる、
“ムスビ”パワーにあるのでは?と私は思わずにはいられないのです。{/netabare}


2016/9/5初回投稿レビュー 「結びの一番。」
ネタバレ無しですが、長くなるので折り畳みw
{netabare}
本作を劇場鑑賞するに当たって私には二つの懸念がありました。
一つは長編への不安。もう一つは入れ替わり設定にあるコメディ要素と新海作品との相性です。


新海監督は精緻でリアルな背景作画の中で、繊細な心理を描写する構図が特徴。
短編の場合だと、鑑賞者もキャラが発する微弱な心情も感じ取って、
重たい現実の中で揺れ動く想いを共有することができます。

ですが、これが長編、特に90分以上の長丁場になると、
繊細なキャラ心理を拾い続ける鑑賞者の集中力が続かなくなってくる。
心情を受信し切れてないと伏線もつながらない。
という事態が発生しがち。

それが新海監督作品はファンも多い一方で、
新海監督、絵は綺麗なんだけど……という感想も生んでいたと私は思います。


と言うより、新海作品は作画は超絶綺麗でリアルだけど、
感動するにはリアリストからロマンチストにならなければ難しいと私は思います。
圧倒的な風景の中で霞む人の想いを伝える。
お化けなんかないさ。この凄い背景作画観れば分かるだろう?とすましている方に、
幽霊や超常現象の存在を信じて頂くような困難性を、
新海作品は抱えてきたのだと思います。


手強い現実に対する儚い想いを束ねるテーゼとして、
本作では監督は“結ぶ”という概念を掘り下げてきました。

詳述は避けますが、“結ぶ”を探求した末、その研究成果をキャラを通じて披露された時。
今まで過去作ではつなぎきれなかった、まとめきれなかった想いを一つにする思想体系をついに発見した!
これで想いを紡ぐ物語も綺麗に締めくくり、句点を打つことができる!
そんな監督の手応えやら、ドヤ顔やら、色々な喜びを共有できた妄想に私は取り憑かれ、
劇場鑑賞中に思わず拳を握ってしまいました(笑)


男女入れ替わり要素も、本作では笑いからリアルを揺さぶり、ロマンの領域に引き込む
仕掛けとして有効に機能していたと思います。

過去の長編なら2時間、想いを真面目に語り続けていた所。
私は例え1年4クール延々、鬱々と想いをぶつけられても平気な人ですがw
これだと堅物な現実主義者は焦れてしまう。
本作のメリハリを観て、ユーモアは大切だなと改めて思いました。


万人にオススメできるか、客観的に言えない程度には私は新海監督ファンになり過ぎていますがw
少なくともファンの人には絶対に観て欲しい集大成的作品であることは確か。
今まで新海作品をずっと観てきて、これを観ないなんて、
大相撲で本場所14日間観戦してきて、最後、千秋楽、結びの大一番を見逃すようなもんです。

ファン以外の方にも、過去作の経験からキャラの心情を受信させる工夫がなされた良作なので、
興味がある方は是非、観て欲しい作品。
特に、過去、新海作品の心理描写を受信し損ねて失敗した人の反応に私は興味があります。

ただ、それでも、ビジュアル重視の大衆娯楽作よりは、依然、心理描写が繊細な本作。
鑑賞の際は、見えない糸を掴む思いで、感性を研ぎ澄ませて、
キャラや監督が探し出した物を共有して欲しいと思います。{/netabare}

投稿 : 2017/04/19
閲覧 : 545
サンキュー:

91

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