じゅん さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
新海監督の集大成
新海監督がこれまでの全てを放出した結果、エンターテインメント作品として文句の付け所のない傑作が生まれた。
過去の作品に触れてから観に行ったのだが、今作は監督の作家性がこれまでで一番薄く感じられた。
具体的に言うと、これまでの作品では詩的なセリフ回しや、いやに斜に構えている男性キャラ等のカッコつけてる感じが気になってしまう所があったのだが、今作はそれがほとんど感じらなかった。
そのため主人公たちへの感情移入もしやすく、自然と涙が出てきた。
これは監督本人が意図的に封印したというよりも、事前のインタビューでも答えていた「観客がどう感じるかを常に意識して作った」というものがきちんと現れていた結果なのかもしれない。
メディアは「新海監督の最新作」として大々的に報じてきたが、これはことこの作品にとっては重要な事だと思う。
これは間違いなく彼の集大成であり、過去の作品のエッセンスを多分に取り込んだベスト版的作品だからだ。
例えば『雲のむこう、約束の場所』にあった「記憶が薄れてやがて消えてしまう」という恐怖、『秒速5センチメートル』のラスト「とても近い場所にいたのに果たせなかった再会」。
これらを知るファンにとっては今作のラストではそわそわしたと思うし、そうさせるために一度すれ違わせたのは意図的に取り入れられたものだと思う。
だからこそ、ハッピーエンドで終わったことがどれだけ嬉しかったことか!
初めに「作家性が薄まった」と書いたが、その要因のひとつとして長編は初タッグとなった田中将賀氏、音楽全般を制作したRADWIMPSの参加はとても大きな影響を与えたと思う。
むしそそれいよって「新海監督作品」というよりも多くのトップクリエイターによる共作としての色合いが強まった結果だとも言えるからだ。
特にRADに関しては、すでに売れっ子の中堅アーティストとしては長編アニメーションへの参加は主題歌のみならまだしも、劇伴全般を請け負うことはとてつもない事だろう。
製作時間の長さや、初挑戦の試みだけにうまくいかなかった場合のリスクは相当高かったはず。
そこをあえて挑戦し、素晴らしい成果を持って応えたことは大きく評価したい。
作品の評価からポスト宮﨑駿のひとりと目されてきたが、細田監督などと比べていまひとつ興収的に劣っていた新海監督がいよいよ大ヒット作を出したことは今後の日本のアニメーションにとってもとても大きな事だろう。
これが足枷になってプレッシャーに潰されることが無いよう頑張って欲しい。
ただ今は本当にこの作品に出会えて良かったと思う。