Takito さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
「君の名は。」を全力で見に行って。
「過去作への返し歌であり、未来への一里塚でもある」
三年ぶりの新海誠作を観て、感じたことを短く述べればこんなところだろうか。既に観た人なら分かるだろうが過去作のセルフオマージュが至る所に散りばめられ、従来からのファンは去来する様々な感情に苦慮したことだろう。今作は監督の代表作であり賛否両論がありつつも最も存在感の大きい「秒速5センチメートル」と対になっているように僕には感じられた。秒速では「距離と流れる時間」でついえた絆が、君の名では「距離と流れる時間」を超えて繋がっていく。
一方で初めて新海誠作品に触れるアニメファンや普段アニメをあまり観ない人にとってもかなり親しみやすい作品だったのではないだろうか。従来の新海誠作品では全体的にトーンを抑え、詩的な独白や背景の光の加減、キャラの表情の機微で繊細な世界観を表現してきた。しかし今作ではギャグなどのサービスシーンにこだわり、キャラの軽快な掛け合いを中心に全体的にアップテンポな雰囲気で展開したことで、純粋に「楽しい」と感じられることが多かった。Z会のCMである「クロスロード」からタッグを組む田中将賀の、どこか柔らかい印象のキャラが見せる豊かな表情、流れる涙が心を揺さぶり、さらに物語の山場の絶妙なタイミングで流れるRADWIMPS…気付けば僕らはあの美麗な世界へ引っ張り込まれている。新海誠が持ち味としてきた繊細さが新たな装いを得てさらなる可能性を示したことを僕個人は非常に評価しているが、過去作との作風の変化を他の新海ファンはどう感じただろうか?
総じていえば「君の名は。」は傑作だ。秒速五センチメートルに並ぶ新たな代表作になるだろう。僕としては今回最も強く印象に残ったのは、従来の新海誠らしさを磨きつつ一般的な客層にも受ける内容に進化を遂げたことだ。僕自身、従来作を大きく評価しながらその芸術性ゆえにメジャー化するのはまだ先のことだと思っていた。それが封切られてみればこの勢いである。感無量だ。
今作は現時点での集大成であると同時に、新海誠監督の新しい可能性を知らしめるものであった。どこまでもまっさらな可能性の地平を前に、ある意味でスタートラインに立ったともいえよう。いったい彼はどこまで羽ばたいてゆき、そして僕らにどんな世界を見せてくれるのだろうね。次回作が今から待ち遠しい。