退会済のユーザー さんの感想・評価
3.0
物語 : 3.0
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 3.0
状態:観終わった
観測者不在の物語は虚しい
新海誠監督作品はだいたい観賞済みである。
個人的には秒速5センチメートルが良かった。だが星を追う子供などはゲド戦記レベルの駄作だろう。
さて今作は、CMの彗星のシーンの美しさに惹かれつつもストーリー的には微妙なんだろうと予想をたてながらも期待を持ち観賞に臨んだ。
絵は非常に美しい。これだけで映画館に足を運んだ甲斐があったとすら言える。
ただ、肝心の話がまずい。途中何度か胸に来るシーンはあったものの、その度に「何故こうなるのか?」との疑問符に感動が打ち消され、観賞後は空虚な感覚に陥った。
入れ替わって直ぐに全く異なる生活をそうそう簡単に送れないよね、なんて野暮な突っ込みはまだ可愛らしいものだ。タキとミツハはいつの間に両思いになっていたのか、とか、噛み酒飲んでああなるのをタキは何故確信していたのか、とか、簡単に大事なこと忘れ過ぎ、とか…とにかく書き切れないほどご都合主義な展開が襲いかかってくる。
クライマックスに差し掛かり、ミツハの友達はいとも簡単にハッパで変電所を爆破するという「テロ行為」に加担する。おいおい、それは流石に無茶苦茶だ。せめてタキと入れ替わった際に知り得た未来の出来事が現実になり、それを目の当たりにした友達が納得するとか、そういう説得力あるシーンが必要だろう。
父親を動かすシーンも描写せず全て視聴者に丸投げ…いやそこは投げたら駄目だろう!せめて、ミツハに母親の面影が重なるとか、そういうシーンを入れれば良かったのに。
そして、この映画で一番酷いのは…最後、タキとミツハ、二人共記憶が無いということだ。あの二人すら記憶が無いなら、作中の人物全てがこの2時間近くの出来事を知らないということだ。
…何それ?
勿論視聴者である我々は知っている。当たり前だ。
だが、改変作品は、登場人物の中に記憶を保持する観測者を作らない限り成り立たない。今作の彗星による死を回避した壮大な物語は、作中の人物にとって無かった事になるのだから。無かったことにされたストーリーを2時間も見せつけられたのだから、これほど虚しいものはない。
視聴者側も、視点が一気に作中の人物への感情移入から幽体離脱して俯瞰に移りブレる。ブレまくる。
これには、最後に唖然とするしか無かった…
総評として、絵は素晴らしいがストーリーはお粗末。歌が途中入りまくるのも問題外。
恋物語としてもSFとしても入れ替わり物としても過去改変物としても…全て中途半端。残念。
新海誠監督は、職人タイプではあるが作家性は無いのだと改めて思い知った作品である。