笙 さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
都会と田舎、その差がはっきりとわかるアニメです。
田舎を漠然とでなく、具体的に描き切ったアニメです。
移動はいちいち遠いし道は悪いし自販機も少ないから大変。
風呂のボイラーは手動ですぐ壊れるし、修理もすぐにはできず結局薪窯。
そしてクソガキ共は礼儀知らずで図々しくてやたら元気を持て余している。
でも、不便なりに近所同士助け合ったり、差し入れとかもしてくれたりして、
子供達も礼儀知らずと言えど「先生」を傷つける事は望んでいないし、
何だかんだで皆暖かくて、彼等の発する訛り言葉も心地良く響きました。
このもん食べてみたいです。このもん!このもぉぉぉぉん!!!
「先生」が冒頭で殴ってしまった「館長」という人物。
この館長も、人間としての未熟さと、権威故の傲慢さ、愚鈍さを抱えている人物だと思います。
館長が発した「実につまらん」という言葉。あれは明らかに不要の余計な一言でした。
つまらんとは、相手を評価する言葉ではありません。
自らの優位を強調し、相手を侮蔑し侮辱し、攻撃する言葉です。
攻撃した事により、館長はあの一瞬、先生の「敵」となったのです。
館長は自業自得の結果として先生に殴られた事をここに強調しておきたいのです。
無論、それは社会人としては大人げない最低の行為とされるものである事は間違いありませんが。
権威に拳を振り翳す書道家。それは館長が出会った事のない人間でしょうね。
だからこそ、その立場故に、権威故に館長の感性と理性は鈍ってしまったのでしょう。
つまらん以外に無限に存在した筈の言葉を選ぶ事ができず、
安易で陳腐で醜悪で、何より傲慢な言葉を選んでしまった。
文字と言葉に携わる書道家として、これは余りにお粗末。醜態です。殴られて当然です。
先生が帰郷した際にも、館長は道徳を説教してやろうと思っていたと豪語し、
先生は俺は最低だと縮こまったまま。どうにも気持ち悪い都会の人間関係を感じました。
先生は館長に頭を下げました。自分が老人を拳で殴るという男として恥ずべき行いを為した事を自覚したのです。これは人と人との関わりを通して、先生が一つ成長した事の証明だと思います。
しかし、館長は?先生が今まで信じていたものを全否定し、つまらんと罵倒した館長は?拳で殴るよりも酷いことを、書道に関わるものとして恥ずべき行いをした館長が、道徳を説教?何の冗談ですか?
権威を傘に着て他人との間に壁を作った批評家としての姿が板に着き、正しく美しく書かれた字を型に嵌ったつまらない字としか見られなくなり、それを公衆の面前で罵倒する傲慢で無神経な館長は一切己を省みる事も無く道徳を説教と豪語する。都会の人間関係にとかく付き纏う「権力」「権威」というものの作る壁。その厚さを思い知らされます。