「化物語(TVアニメ動画)」

総合得点
92.1
感想・評価
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ランキング
25

ムッツリーニ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.7
物語 : 4.0 作画 : 3.5 声優 : 3.0 音楽 : 3.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

さすがにもう終わって欲しい

言わずと知れた西尾維新氏の代表作であり、終わる終わると言いながらみみっちくも続刊し続けている作品。
正直、偽物語の辺りで飽きてきていた私ですが、言葉がまとまってきたのでレビューしようかなと思った次第。

あらすじはもう今更説明するまでもない感じなので割愛するとして、特徴的なのはやはりカットと暗転を多用した新房監督独特の作風でしょう。
この作品は時系列にそってはいるものの個々の物語に繋がりはない、いわゆるオムニバス形式で、個々の物語の始めにあらすじとして、小説で言う所の「地の文」が映されるのですが、原作既読の人にとっては予備知識として「知っている」部分であり、未読の人にとっては「おい、アニメしろよ」といずれにしろ不満が出る部分なので、漢字とカタカナを使ったまったく読ませる気がない文章が物凄い勢いで映されて本編が始まります。
「読みたい人は一時停止してね」って事です。メンドクセッ
まぁ、第1話では正確にはこの作品の前日譚である「傷物語」のあらすじが表示され、より細かく言えば、この物語の最大最強ヒロインである羽川翼のパンチラから始まるんですがそれは些細な事です。

他にも場面転換のつなぎ、見せちゃいけないシーンの暗転、納品が間に合わなかったカットの一時しのぎなどマルチな活躍を見せる黒齣赤齣。
漢字をつかった絵的表現。
そして実写を切り貼りした切り絵風アニメーション。
これら一見手抜きのようにも見えてしまう実験的表現が作品全体の不気味さを際立たせており、独特の世界観を構築しています。
個人的にアニメで表現する上で最も難しい物の一つは「恐ろしさ」や「不気味さ」所謂ホラー表現だと思うんです。
アニメって所詮は絵なわけですから、その時点で映されるモノと観客の精神には絶対的な剥離があって、どんなにリアルを追求しようと観客にとってはファンタジーな訳です。
一方ホラー表現は体験的な共感性、つまりは一体感が根幹にあって、登場人物と観客が共感し、そこに一瞬変な映像が写ったりすることで「なんか今のおかしい」という得体のしれない感覚に背筋が凍ったり鳥肌が立ったりするわけです。
恐怖を感じる共感性を発揮するには当然実写の方が良い。しかし前述のとおりアニメは絵。ここに埋めようのない意識の断崖があって、それを解決する一つの手段として実写をトレースするという手法を使った「惡の華」という作品がありましたが、あれは「実写でやった方がマシ」という、当然というか当然の結果に落ち着きました。
では絵としての不気味さをどう表現すればいいか。ここで「埋めようがないなら引き離せばいいじゃない」というコペルニクス的な何かが起きたのか知りませんが生まれたのが、漢字や写真を使って「絵では表現しようのない物を表現しよう」と言う試み。
つまりは「視聴者を絵から切り離す事によって生まれる不気味さ」を実現しているわけですね。
まぁそれ自体は監督の過去作である「さよなら絶望先生」や「ネギま!?」でも使われていたので、特に新しい物でもないのですが………
そしてこの作品で培われたノウハウが後の大ヒット作「魔法少女まどか☆マギカ」に受け継がれると考えると中々感慨深い物があります。

さて、随分と作品の感想から離れてしまったので閑話休題。ここで作品のテーマの話でも。
原作者である西尾維新氏はデビュー作である「クビキリサイクル」から一貫して描き続けているテーマがあります。
それは戯言シリーズの最後に結ばれる「僕達は普通になれた」という言葉からも解るように「異常な人間から普通の人間になること」です。
もっとも「普通の人間」という認識が登場人物によって凄く違っていて、そこが面白いところではあるんですが、共通しているのは「普通=幸福」であるという認識。故に本人は普通のつもりであっても他者からは異常性を抱えたままでいる訳で、そういう意味では「自己肯定」に最大の主眼を置いている作家さんなのかなと。
この化物語も主人公である阿良々木暦を中心として何らかの「異常」を抱えた少女達が「普通」の少女になっていく過程を描いた物。つまりは「アウトサイダーからの脱却」がテーマであり、これを満たしてしまったヒロイン達は次々と物語から退場していきます。
戦場ヶ原ひたぎ然り、羽川翼然り、八九寺真宵然り、千石撫子然り。彼女達は彼女達なりの「自己肯定」を経て物語から去っていきます。まぁ時々また異常を添加されて復帰したりしますが、概ねそういうことです。
原作では本筋とはほとんど関係ない雑談が6~8割を占めていて、そういう雑談がこの作品の醍醐味という方もいます。その意見は私も解るし、握手してハグしたくなります。
ただ作品全体としては大半を占める雑談の殆どは、そういう気障ったらしいテーマに対しての照れ隠しからの誤魔化しも多分にあるんだろうなとも思っていて、だから原作にある雑談がほとんどカットされていることに対して「そこを切るなんてとんでもない!」と自らのリテラシーの低さを自覚せずに文句を言っている人達はそっとしておくとしても、これだけは言わせてほしい。

(このレビューも)いい加減終われ。

投稿 : 2016/08/27
閲覧 : 214
サンキュー:

5

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