変態王 さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
現実的、あまりに現実的な×虚構的、あまりに虚構的な
新海誠作品といえば不条理な距離=喪失と"前進"が好んで描かれる。
距離=喪失に関しては『ほしのこえ』では星と星との物理的、時間的な距離、『秒速』では"時間"が作ってしまう心の距離や時間そのものの喪失性、『星を追う子ども』では死という生者からする絶望的な距離、喪失を扱い、その喪失を受け入れ前進していく。
今作はそうした新海作品の結晶の様なもので、{netabare}現実と夢=平行宇宙の絶望的で理不尽な"距離"がサユリの記憶の喪失を通じて描かれる。{/netabare}
ラストのシーン、空の向こうの、約束の場所で{netabare}サユリは目覚め確かにそこに実在するのだが、ここでは夢=平行宇宙というサユリにとっての一つの"現実"から醒めてしまっているのであり、ここでサユリの現実(平行宇宙)とヒロキの現実で繋がれていた関係性に決定的な断裂、距離が生まれる。
ヒロキはその距離、喪失を受け入れ、ミサイルで塔=今までのサユリ(の夢)とヒロキとの距離を繋いでいたモノを破壊し、距離そのものを完全に断裂させてしまう。
そしてもう一度1から関係を、距離を構築すること、前進することを決めていく。{/netabare}
この意味で、サユリとヒロキは"約束の場所"にはたどり着けなかった。
このうような"現実を受け入れ前進する"という現実的、あまりに現実的なテーマをあまりにファンタジックなミサイルで謎の塔を破壊するという虚構映像で魅せるこの相反性が新海誠の技術の一つ。
また途中のサユリとヒロキのファイト一発場面での「私たちどこかで、、」の言葉は、サユリの夢の中の沢山の塔=平行宇宙の各々の世界の可能性そのものであり、これは他の新海作品との連関もあるのかもしれない。(例えば秒速はあの塔の一つの世界かしれない)
考察しがいのある作品は良い作品、劇場だと初見では背景作画の良さに意識がとられてしまいますね。君の名は、何回で自分の中で仕留められるか。とても楽しみですね。