101匹足利尊氏 さんの感想・評価
3.9
物語 : 3.5
作画 : 4.5
声優 : 3.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「いつも何かを失う予感がある」と彼女はそう言った
今月公開される新海誠監督の新作『君の名は。』を観る前に何を見返そうか……。
私の場合、新作のPVをチェックして、浮かんだ作品が本作でした。
届きそうで届かない憧れの人、場所、夢……。
本作はこうした微妙な距離感が繊細に描かれています。
ヒロインがすぐ側にいるのに、わざわざミラーに映った彼女を描写してみたり……。
捕まえきれない物を表現する新海節を随所に敷き詰め、鑑賞者のハートをチクチクと刺激。
さらに南北分断下のパラレルな日本にて、
“ユニオン”統治下の“蝦夷地”で存在を誇示し続ける塔が、
手の届かない物、変えられない鬱屈を象徴。
そこに付加される、感覚だけを残して記憶は泡と消える、夢の不思議。
足下のフワフワした覚つかなさが、青春の夢幻を表現しています。
惜しむらくはフワフワ感が、世界で起こっていることの説明やプロットの骨格にまで浸透した点。
特に彼女がなくしたくない何かについて伏線はありますが、繊細で弱い。
より具体的に言うと、 {netabare}昏睡中のヒロインは夢の中で主人公少年との一時を共有していますが、
目覚めれば感覚だけを残して記憶は消えてしまう。
だが目覚めなければ本当の彼と再会することはできない。
このジレンマの描写が繊細なため、アンテナを張ってない人には受信できないかもしれません。{/netabare}
ただあまり仰々しく表現すると繊細な新海ワールドの雰囲気が崩壊していしまう……。
この辺りは新海監督作品を鑑賞する時、毎回のように感じるジレンマです(苦笑)
これらの課題も意識しつつ、進展を期待して『君の名は。』鑑賞へ向かいたいと思います。
そう言えば、津軽海峡を境に南北分断された日本も平行世界。
穿った見方をすれば、本作の世界もまた宇宙が見る夢……。
本作は一体、誰が見ている夢なのでしょうか……。
工場のおっさんの言葉を借りれば、ロマンティックな……。
雲をつかむような感覚を楽しみたい新海作品です。