どらむろ さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
イージス艦が太平洋戦争を変えていく、if戦記の傑作。単なる無双系ではなく、専守防衛の理念や日本の在り方を問うています。
「沈黙の艦隊」で知られる、かわぐちかいじ原作の軍艦戦記、全26話です。
太平洋戦争中にタイムスリップした自衛官が、イージス艦(現代の超強い軍艦)で戦争に巻き込まれていく…戦国自衛隊の海戦版。
イージス艦という軍艦(厳密には護衛艦というらしい)が、いかにチートな兵器か存分に見せてくれる。
過去に行って無双する系統ですが、if戦記(もし、あの時こうすれば歴史はどう変わっていたのか?)としても興味深い。
戦争や、現在の日本の在り方等々、色々と考えさせられる物語は素晴らしい。
海戦アニメとしても、海上自衛隊の協力を得てしっかりと作られ、迫力満点。
…ラストが中途半端なのを除けば、このジャンルの中でも傑作かと。
{netabare}『物語』
現代日本の海上自衛隊のイージス艦「みらい」VS太平洋戦争当時の日本海軍orアメリカ海軍(みらいはどっちの味方でもない)の緊迫した海戦が熱いです。
現代文明が過去の軍隊相手に無双する系統なんですが…
主人公の角松二佐(二佐は自衛隊の階級。中佐に当たる)達「みらい」の自衛官たちは、「あくまでも自衛官として、戦争はしない。人命救助が目的」
なので、極力相手を攻撃せずに立ち回るので、その制限のお陰で圧倒的戦力差があっても終始ハラハラさせられる緊張感が見所でした。
※タイムスリップではなく異世界系の、自衛隊が後進文明に無双する「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」と構図は似ていますが、ジパングは終始圧倒はしますが、厳しい縛りプレイで油断するとやられる!感じ。
戦闘シーン自体は意外と少な目なんですが、その少ない戦闘シーンがいずれも緊迫感と迫力ハンパ無い。
いや~、イージス艦って強い。ちなみにアメリカの技術なので、日本万歳とは程遠いです。
ゲートの帝国軍は数百いや千年以上は遅れているので近代兵器無双は分かるのですが、太平洋戦争はたったの数十年前、彼らの兵器(戦艦大和やガトー級潜水艦、ゼロ戦、空母ワスプ、艦上爆撃機ドーントレス)だって十分強い。
…にしても、太平洋戦争はたったの70年ちょい前(本作当時は更に10年以上近い)、たったの60年で、兵器の技術が異次元の強さに発達している事が、空恐ろしいです。
でも、現代兵器と太平洋戦争兵器の対決は、非常に興味深いし興奮しました。
戦闘シーンも凄いのですが、物語としての軸はあくまで「平和国家日本の自衛隊としての在り方」
「戦闘に巻き込まれて、それを貫けるのか!?」
自衛官としての苦悩や、理想、理念を、とても分かり易く伝えてくれる。
終盤の角松たち同期3人の過去回想、生真面目ゆえに有事には人を殺さねばならぬ自衛官任官を一度は拒否しかけた菊池砲雷長のドラマを踏まえ、苦渋の決断で攻撃指示を下す流れは圧巻。
厳しい戦況下、絶大な力の使い方を決して誤らなかった自衛官の誇り、見事でした。
…でも、無責任な視聴者としては(え~、さっさと本気で戦えよ~)と思わなくも無かったりw
でも、そこか本作の凄い所でもあり。
軽率に戦闘せずとも、終始緊張感維持し続けるシナリオは素晴らしいです。
if歴史ドラマとしても、「みらい」の存在が日米両軍に与えた衝撃、変容していく戦況、変わっていく歴史のifがエキサイティング。
中盤のガダルカナル攻防戦辺りから加速していく(もし、あの時こうなっていれば!?)この辺のワクワク感は最高でした。
…惜しむらくは中途半端な形で終結している事。
結局、草加少佐の描く理想のジパングはどんなモノなのか?具体的に見えてこない。
まあ…その辺は、原作でも結局完結できなかったので仕方がない。
原作だとこの後(原作ネタバレ){netabare}原爆を巡って長々と続いて、冗長ですし、アニメは2クールでキリ良く纏められたのかも。
…原作の、磁気嵐でイージスシステム無効状態で、米戦艦とガチンコ砲撃戦やるシーンまでいかなかったのも心残り。{/netabare}
ラスト消化不良感はありますが、if戦記としても海軍物としても、このジャンルではトップレベルに面白かったです。
…個別の見所。
4話、みらいの初戦闘は米潜水艦との対潜戦。※「はいふり」では3話に対潜戦ありました。
過去にタイムスリップしてしまい、攻撃されて死ぬかもしれない不安と恐怖の中、ひとりの男がパニクってしまう。
米倉「どうせ…僕たちは帰れないんだ…そんなに…僕たちの力が見たいのか…攻撃してくる…お前らが悪いんだぞ…やってやる…やられる、前に!」(ポチッ)
イージス艦からアスロックという対潜ミサイル発射。
菊池砲雷長「米倉!貴様は一人で戦争をおっ始めるつもりかぁ!?」
米倉「やらなければ、やられます砲雷長!」
菊池「(部下に)ヒューマンエラーだと報告しろ!それから、こいつをCIC(武器を扱う部署)から叩き出せ!」
…ここがいわゆる「アスロック米倉」誕生の瞬間ですな。
以降、○○(兵器名)××(苗字)というテンプレが(極一部の層に)定着してたり…。
無論本編では超真面目なシーンなんてすが、アスロック米倉ネタのお陰で笑ってしまうw
14話、ガダルカナルの米上陸部隊を殲滅せんとする戦艦大和の46センチ砲の弾雨を、みらいのイージスシステムが全弾阻止!
対空が真骨頂なイージス艦の実力と、菊池砲雷長の神業が光る圧巻のシーンでした。
…本作は軍艦物なのに、艦隊戦一度も無い、一番の見せ場が砲撃戦ではなく、対空戦闘なのは変わってますが、日本軍最強の大和と現代最強イージス夢の対決実現してくれたのは素晴らしい。
21話、米空母「ワスプ」から、艦上爆撃機「ドーントレス」40機の大編隊がみらいを襲う!
最初から全力ならばイージスシステム圧勝が決まっているのですが、「なるべく米軍の犠牲も出したくない」ので、主砲127ミリ砲で迎撃。
現代技術スゴイ、爆撃機が次々とピンポイントで撃墜されていくのは圧巻です。
…ハットン中佐の意地と技量タツジン!
一番の見所はイージス無双ではなく、太平洋戦争の旧式(無論彼らには最新)爆撃機で一矢報いたシーンでした。
米軍かっけえ!
角松「どんな時代だろうが機械は決断しない。戦闘は…人間がやるんだ」
23話、前回22話の菊池砲雷長の苦悩する回想を踏まえて、大勢の乗員殺傷してしまう「トマホーク(みらいの対艦ミサイル)」の使用を梅津艦長に具申する。
菊池「トマホークによるワスプ撃沈を具申します」
戦争、人の命を奪う重さ、ワスプ側の阿鼻叫喚と驚愕など、目が離せない。
強力な空母がミサイル一発で轟沈していくシーンも圧巻。
『作画』
キャラデザはかわぐちかいじ絵で地味ですが、まあ作風なので。
軍艦などの兵器はCG使用で十分なクオリティーあり。2004年ですが、今見ても遜色ない。
海上自衛隊全面協力の元で、艦内や戦闘シーンが緻密に描かれている。
少ない見せ場が素晴らしく、軍艦アニメとして今なお素晴らしいです。
当時の時代の空気を感じさせる背景描写も秀逸。
『声優』
渋いベテラン男性声優陣勢揃い、豪華です。
角松の稲田徹さんは結構若いのですが、冷静さと激情の狭間で揺れる熱演でした。
草加の東地宏樹さんの、得体の知れなさに隠れる理想語る演技も素晴らしい。
滝少佐の石塚運昇さんは、かなり若い演技。
ハットン中佐の広瀬正志さんもカッコ良かった。
『音楽』
主題歌は無くOPED共に音楽、どちらも引き込まれます。
本作が素晴らしいのはBGM。
特に戦闘シーンの盛り上がりに大きく貢献しており、本作を名作足らしめている。
…「アスロック米倉」のイメージがありますがw
『キャラ』
みらい乗員、帝国軍人、アメリカ軍人いずれも個性や信念あり。
山本五十六、米内光正、石原莞爾らの英傑たちの存在感も大きい。
架空キャラも、史実軍人も、各々しっかりと見せ場ありました。
キャラ層の厚みは抜群。
主人公の角松二佐の揺るがぬ信念が印象的。
激情露わにするので、共感しやすい人物でした。
新たなる戦後の可能性を知り暗躍する草加少佐も不思議な魅力あり。
敵対はするものの、まるで子供のように無邪気に理想を語る。
中々思惑の読めない不気味さとは裏腹に、彼もまたもう一人の主役なんだと思わせる。
菊池砲雷長の、どこまでも生真面目に戦争の重さに苦悩する人物像も良い。
トマホーク菊池、いざ戦えば神業的射撃管制…タツジン!
本作は日本軍以上にアメリカ軍人かっこいいです。
ガダルカナル上陸を指揮するヴァンデグリフト少将の、知勇と威厳全て備えた名将ぶりステキ。
MVPはドーントレスでカミカゼアタック(直前でちゃんと離脱)でイージスに一矢報いたハットン中佐。
軍人の鑑です。中の人的にランバ・ラルを彷彿とする。
…勇敢に戦い、特攻してもちゃんと脱出して生き残るのが、アメリカ人らしくて良いです。
この作品、単なる物量ではないアメリカの強さ描いている。
※「聖戦士ダンバイン」でも、無敵のオーラバトルシップ相手に核積んで特攻→脱出コンボで敵に一矢報いてたり。
…ダンバインでは離脱後に執拗に殺されますが…さすが皆殺しの冨野。
…「アスロック米倉」
ある意味ネタ的に本作で一番の有名人かも。{/netabare}