狗が身 さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
正統なる魔法少女の物語。
『魔法少女』というワードに込められた希望や夢といった明るいイメージをぶち壊しながら描かれたダークファンタジーだけど、実は正統派な魔法少女作品と比べて魔法少女の在り方自体は変わっていない。
つまり、魔法少女は誰かの日常を守る為に戦う、可愛くて格好良い素晴らしい少女達だということ。
魔法少女へのアンチテーゼを主張しているのかと思いきや、実際は魔法少女を肯定した作品なんじゃないかなと思う。
本作では、何でも一つ願い事を叶えてもらう代わりに魔女と呼ばれる化け物と戦う契約を交わした少女たちが、衝撃の事実や厳しい現実に直面していく姿が描かれる。
魔女との戦いではいつ死ぬとも限らず、契約を交わした時点で魂は小さな宝石へと変えられて肉体はただの器と化す。
魔法少女としての戦いは誰かの日常を守る為であり、その戦いに終わりはなく、誰かに感謝されるわけでもない
終わらぬ戦いに心は疲弊して、絶望すると今度は自分が魔女になって誰かを呪う存在になってしまう…。
本作における魔法少女は、あまりに報われない。
誰かの幸せを願った気持ちは本物のはずなんだ。それが例え100%誰かの為じゃなかったとしても、リスクを背負ってでも叶えたい強い願いだったはずだし、魔法少女になってから誰かを守る為に戦おうとした気持ちもまた、本当のはず。
彼女たちの心は、未熟ながらも美しく尊いものなんだ。
とくに10話。ここは内容が凄かったな…。ここまでで薄々ほむらの目的は感づいていたとはいえ、彼女の歩んできた道のりは僕の想像を容易く超えるものだったし、今までの映像にほむらのモノローグを挟んでくるのがもう反則的。そしてエンディングにOPを入れてくるんだものな~…。ここからが本当の始まりって感じの演出が見事。
ここまでの時点でもう視聴者である僕と、傍観者であったまどかの視点も心境もシンクロしてしまっている。まどかと同じく僕も魔法少女たちを助けたいって気持ちがある。
だから、まどかの叶えたい願いが明らかになり、それを実行した展開には鳥肌が立たずにいられなかった。
そうなんだよ。この作品って人の自己犠牲というか、献身の精神を賛美してるんだよな。
やらない善よりやる偽善って言葉があるけど、本作の主張も正にそれなんじゃないかな。例え多少なりとも利己的な考えがあったとしても、誰かの為に自分を犠牲にするってのは凄いことなんだよな。
だから多分、まどかによる改編でも魔法少女自体は無くならなかったんじゃないかな。誰かの、あるいは自分の為に祈り、自分の身を捧げるという行為そのものは無かったことにしなかったのは、それ自体は間違ったことじゃないと言いたいんだと思う。そこは僕も同感。
それにさ、まどかが魔法少女達を円環の理に導く際に少女達が魅せた表情でも分かる通り、彼女らの表情には後悔も絶望もなくて、満足げだったんだよ。これだけでもう、充分だよね。
人生が終わるその瞬間に今までを振り返って「後悔なんてあるわけない」って思えるって、めちゃくちゃ素敵なことだよね…。
惜しむらくは、さやかの恋愛関係はやや強引すぎたかな。さやかを絶望させていく流れがね-、せめてさやかが上条の話をしてる時に仁美のカットを序盤から入れておくとか、仁美が上条の様子をさやかに聞くとか、そういう前振りは欲しかった。
それと、まどかによって宇宙の法則が改編された後の世界の説明があまりに不足していたこと。
改編された世界でほむらが魔法少女となった理由はなんなのか、とか。ソウジェムが魂で肉体がただの器であることも変わっていないのか、とか。
その辺は劇場版で明かされるのかな?
とにかく本作は、ダークな描写や雰囲気で描かれた魔法少女への描かれたアンチテーゼなんかでは無く、間違いなく【魔法少女という希望の物語】である。