岬ヶ丘 さんの感想・評価
3.0
物語 : 3.0
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 3.0
状態:観終わった
現代の私たちと表現の関係に一石を投じる、一作
原作未読。図書館、本といった身近な題材から、表現の自由を守るための戦いを描く、という設定と着眼点は秀逸。ただ昨今の政治や憲法問題を考えると、本作を架空の物語として素直に割り切ることもできず、中途半端に現実的な世界観をどう評価していいのか、コメントに悩む場面は多々あった。舞台設定は秀逸であるが、一部不明瞭な点や、腑に落ちない描写が気になった。
例えば、冒頭からすでに図書隊とメディア良化委員会との対立がはっきりしているものの、その経緯や権力側の思惑がはっきりしない点が気になる。相手の主張や意図がはっきりしないため、図書隊の言動を理解できる反面、感情移入できない部分もあった。本来であれば、武力ではなく対話による解決を優先しなければならないにも関わらず、武力での介入が当たり前の事実として認められていること自体が、この作品の特色であり、同時に怖い部分でもある。
物語のもう一つの軸である恋愛に関して。予想以上にヒロインと教官のラブコメ色が強かった。こちらは舞台設定の難しさや緊迫感とのバランスをとるためあえて強く強調されていると感じた。全体的に悪くはないが、少し露骨すぎた感じもあった。またヒロインの周りのキャラクターが非常に魅力的で、彼らの恋愛模様も気になる。ただ手塚・兄に関しては、特に終盤は存在感が薄く、もう少しエピソードを掘り下げてほしかった。
絵については人物の線のラインが太く、全体的に骨太な印象を受けた。特に男性の力強さが強調されて、個人的にはよい演出だったと思う。
声優に関しては、主演の井上さんや前野さんの声が若く聞こえ、現在との時間の流れを感じさせた。そんな中、特に沢城さんの演技は素晴らしく、やはり当時から頭一つ抜けていた印象をもった。
本作は、現代に生きる私たちと表現との関係や距離感に一石を投じるものであると感じた。