ブリキ男 さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
僕には、ちゃんとした大人って一体何なのか分からない。
キノとエルメス、人とモトラド(※1)のロードムービー。
恐らくは遠い未来のお話。キノとエルメスはどこから来て、どこへ向かうのか、国から国へと巡り、当ての無い旅を続けます。
寓話としての側面もある作品ですが、それを助長して教訓的な物語と曲解してしまうと、以後の物語の色彩が失われかねないので、主人公のキノと同じく旅人の目で観られるのがよろしいかと思われます。
一話につき1つか2つの挿話、旅の途中立ち寄った国でキノが体験した出来事、旅の道すがら出会った人との間に生まれるドラマなどが描かれます。サブタイトルのリストを以下に載せておきます。
{netabare}
1話 人の痛みが分かる国
2話 人を喰った話
3話 予言の国・悲しい国
4話 大人の国
5話 レールの上の三人の男・多数決の国
6話 コロシアム(前編)
7話 コロシアム(後編)
8話 本の国
9話 機械人形の話
10話 彼女の旅・賢者の話
11話 平和な国
12話 優しい国
{/netabare}
キノが※2パースエイダーなどで武装しているのを見て分かる通り、キノの旅する世界はかなり危険の様です。並みの旅人なら追いはぎや野生動物の襲撃で、すぐに命を落としかねないという印象です。
全体的に見ると荒事描写は少なめですが、6話、7話は異色回とも言え"コロシアム"と題されている様に、活劇シーンがかなり多めに入っています。派手さとは無縁ですが、繊細で緻密、本式のバトルものをも凌駕する迫力の映像でした。
この物語の特筆すべき点は、どの様な不条理に遭っても主人公のキノが殆ど裁定を下さないという点です。キノは自己防衛と自由意志でパースエイダーを振るいますが、善と悪の境界を明確に区別する事も無く、旅人らしく、必要以上の他者への干渉を避け、国から国へと旅を続けます。信念とは無縁の生き方を選び、生きる事自体を愉しんでいる様です。転じてそれがキノの信念なのかも知れません。
キノ役の前田愛さんは、私はこの作品に触れるまで殆ど知らなかったのですが、本業は女優だそうで、初回から性格の読みづらい、感情がさざなみの様にしか表れないキノという人物を非常に上手く演じ切っていた様に思います。静かだけれど、どこか温かく、色々な事を諦めたか捨てた感じの優しい声が魅力です。
キノの相棒のエルメス役の相ヶ瀬龍史さんも声優を生業としてるわけではなく、私見ですがプロの声優さんの声を聴き慣れている耳には、その声に耳障りなもの、少なからぬ違和感が感じられました。1話からおしゃべりが過ぎたのがそういった印象を強めた原因だったのかも知れません。2話以降は若干落ち着いてきます。起きた事を冷静に分析する役回りでありながら、とぼけた感じの口調なので、若干皮肉めいた印象を受ける事もありました。そんな声も4話「大人の国」におけるキノとエルメスの出会いの挿話を見た後ではとても好きになれました。奇麗事に聴こえるかも知れませんが、内面は表層に勝る?‥ともかくエルメスはこの人の声じゃなきゃ"ダメ"という程に気に入りました。
今更ながら2期以降を切望したいアニメです。
キノの旅はどこまでも続きます。命を失うその時まで。
※1:バイクの事、エルメスは喋る事が出来る。
※2:銃器の事、キノはかなりのスゴ腕。
※:レビュータイトルは作中のある人物の言葉からの引用です。ブリキ男の一人称はだいたい"私"ですものね。オリジナルではありません。