伝説のししとう さんの感想・評価

4.3
物語 : 4.0 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態：観終わった

長い、長い、旅の始まり

2016年4月から6月まで、ノイタミナ枠で放送。
監督、脚本は「ギルティクラウン」で有名な荒木哲郎さん、大河内一楼さん。
キャッチコピーは、「死んでも生きろ」「貫け、鋼の心を」

ギルクラスタッフの再来ということで、何かと注目されていたこのアニメ。
1話の圧倒的なクオリティから、期待された方も多いのではないかと思います。
終盤の展開は賛否両論となりましたが、私は肯定派です。
ここからはネタバレ感想となります。
{netabare}この作品を語る上で欠かせないのが、なんと言っても天鳥美馬の存在です。
このアニメは、6話まではひたすらカバネを倒していくだけのワンパターンの展開、7話は日常回、そして、美馬が本格的に物語に関わってくる8話、ここから物語が大きく動きます。

美馬の行動をどう捉えるかによって、このアニメに対する評価が変わると言っていいでしょう。
ここからは、私の美馬という男に対する感想です。


美馬が追い求めてきたものは、「鋼の心」です。
美馬は、人が恐怖によって簡単に壊れてしまうことを、身に染みて体験してきました。
それは、11話で黒煙りの存在を知っている通信士を、簡単に刺し殺した美馬父の行動にも、顕著に表れています。

美馬は、カバネ相手に完全勝利することだってできました。実際、幕府の裏切りさえなければ、美馬はカバネを封じ込められていました。それくらい彼は強い。
なぜなら、彼自身がカバネリだったわけですから。
幕府の裏切りがあった中、美馬の討伐軍が、なぜあの絶望的な状況から生き残れたのかというのは良い伏線でしたね。最終話でその理由がしっかりと明かされました。
彼がカバネリであることが分かった上で、もう一度美馬の行動を振り返ってみると、納得できるところがあるかと思います。

美馬は、カバネが存在しない平和な世界に絶望しているのです。
たとえ世界を救おうと、そんな世界は恐怖によって簡単に壊れてしまうというのが美馬の考えです。
カバネが猛威をふるう中で、恐怖に動じず、己を貫ける者、人間性を失わずにいられる者ーつまり、鋼の心を貫いた者を、美馬は追い求めてきたのです。
だから、美馬は命をかけて他者を試し続けました。

それを初めてクリアしたのが、生駒だったのです。
出会えたのです、鋼の心を貫いた者に。
美馬は生駒を殺すつもりはなかったのだと思います。
美馬にとっては、生駒を生かすことは、世界を救うことよりも価値のあることです。生駒が生きていないと意味がない。だから美馬は生駒に白血漿をうったのでしょう。

振り返ってみると、生駒が殺したのは、美馬ではなくサハリなんですよね。
生駒は美馬を殺すという目的は達成できていません。
最終的に、美馬は無名の手によって殺されました。無名もまた、恐怖に打ち勝つことができたわけです。

『やめてって言ったでしょ。私の言うことも聞いてよ』
『私たちは弱くても生きるよ。みんなで田んぼを作ってお米を食べる明日を目指すよ』
『だからごめんね。兄さま』
これには、無名の愛を感じました。
この辺の演出は上手いですね、言うことなしです。

そして、忘れてはならないのは、白血漿は所詮、黒血漿の効果を打ち消しただけにすぎないということです。
生駒と無名の最終的な目標は、人間に戻ることです。残念ながら、その目標はアニメ内では達成されませんでした。
そもそも、美馬が登場する前と死んだ後とを比べたときに、物語が進展したかというと、そうではありません。あくまで元の状態に戻っただけです。
カバネの恐怖から救われたわけでもないし、金剛郭まで失ってしまったわけです。元のままーいえ、状況はむしろ悪くなったと言っていいでしょう。ハッピーエンドのように見せかけてますが、実際は長い長い逃避行の始まりです。
だから、物凄く後味が悪いんですよね、このアニメ。

美馬が登場してからの展開を悪いとは思っていません。別にカバネVS人間の大乱闘が見たかったわけではないので、それに、私はカバネリとしての美馬の生き様はとても美しいものだと思っています。

まだカバネ問題の根本的解決には至ってませんし、カバネとは一体なんなのかということも、作中で明かされることはありませんでした。
まあ一言で言いますと、消化不良なわけです。

だから、私は続きが観たい！人間に戻って、お腹いっぱいお米を食べている無名ちゃんの最高の笑顔が見たい！{/netabare}

余談
{netabare}これだけはどうしても突っ込みたかったというのが一つありまして…
最終話の来栖強すぎじゃね⁉︎{/netabare}