てつ さんの感想・評価
3.9
物語 : 3.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
「もっと身の丈に合った構成であったならば」と惜しまれる作品(約2400文字)
第1話の途中まで観て、思わず「中学生の妄想のようなアニメだな」と感じた。断っておくと、これは嫌味ではない。
実は私はKeyアニメとは相性があまり良くなく、名作だと言われるAirやクラナド等も視聴しているが良く出来ているなぁと感じる反面、純粋に面白いと思えなかった。
しかしそんな私が、この作品には手放しで引き込まれたのだ。
その要因はハッキリしている。冒頭に申し上げた、「中学生の妄想のようなアニメだな」という実感である。
本感想はそれが最も表れていた第1話を軸にした物であるので、まずそのネタバレをする事を許していただきたい。
---引き込まれた第1話に関するネタバレ---
{netabare}
主人公である乙坂 有宇(おとさか ゆう)は物語のはじめ、唐突に「任意の相手の体を乗っ取る」という特殊な力を得る。ただし、5秒間だけという何とも微妙なハンデ付きの能力だ。
このような能力を得たアニメの主人公の場合、大抵は一般人では成し得ない大仰な野望を抱くストーリーをイメージする。しかし本作Charlotte主人公の第1話での能力行使は一味違う。何というか、あまりにもストレートなのだ。
先ほど挙げた能力の発現時、乙坂 有宇は受験を控えた中学生だった。そんな有宇が披露してみせた能力の大きな使い道は、こうである。
偏差値の高い高校へ入学するために、前もって学習塾を巡り優秀な生徒をリサーチ。受験当日に、代わる代わる目をつけていた生徒に乗り移ってはその答案を暗記し、自分の用紙へ反映させるという運びだ。確かに5秒間のハンデを上手く克服しているものの、実に狡い。
しかもそんなある意味努力した甲斐あって、有宇は新入生代表として入学してしまう。もちろん、さらに姑息なやり方はつづく。当然のように試験は同じ手口で主席をキープ。欲望にド直球な性格は猫を被って凌ぎ、学年のマドンナ的存在の女生徒・白柳 弓(しらやなぎ ゆみ)を「僕はお前をオトす」(台詞そのまま)と意気込み能力で物にしようと企てる。
特異な能力をよくもまぁ悪びれもなく使い、しかも難なく成功させるものだと呆気に取られる。ここまで言うのが遅れたが、さらに有宇は元々容姿だけは良いという設定のオマケつきだ。これが私の言う、「中学生の妄想のような」という展開である。
しかし観ていると、なぜか大して派手ではないこの物語にワクワクしている自分に気付く。よく分からない感情と現実味のない野望に燃える大作の主人公よりも、ひどく庶民的で感情移入がしやすいからだ。「ズルいなぁ」と感じつつも、「もしかしたら自分も同じ能力に目覚めていたら、こうなるのかもしれない」という説得力というか、地に足のついた妄想を始めてしまう。
作画の綺麗さは数々の良作で知られるP.A.WORKS制作であるからして観劣る場面など無く、一切の不安なく視聴に専念できる。
続くストーリーでは、しかし有宇はマドンナ的存在の白柳 弓に対してトラックを突っ込ませるという手段を選択する。弓をトラックの衝突から助けた自分を演出し、命の恩人として恋心を芽生えさせようとする作戦だ。そしてそれも弓が脚にケガをしたくらいで、特に問題なくクリアしてしまう。
意中の相手をオトすためとはいえ、周囲の人間を危険に晒す行為を罪悪感なく行えてしまう有宇に、ここまでノリ気の私も「流石にコレはやりすぎでは…」という念が生じる。
だがそれを見越していたであろう脚本の妙だ。そう感じた瞬間、話の流れが変わる。
有宇は呼び出された生徒会室で、「あなたにカンニングの疑いが掛かっている」といきなりの警告が告げられる。すでに用意周到に、有宇の能力を封じる環境での再テストを余儀なくされ、焦りに焦る。
やはり悪いことは悪い。主人公だからといって、そうそう上手く事は続かず、必ず報いが訪れる。
実は有宇を追い詰めたのは、全く別の学校の生徒会メンバーで、有宇と同じく「どこか抜けた特殊能力」を持つ学生の集団だという。
情けない姿を晒した有宇は意中の白柳 弓にもキッパリとフラれ、前述の能力者たちが集う「星ノ海学園」へ、最愛の妹とともにほぼ強制的に転校。星ノ海学園の学生寮へと転居となった。
-----------------------------------------------{/netabare}
これが第1話である。壮大なストーリーではない。だが心にスッと落ちる、身の丈にあった展開やカタルシスが、実に小気味良い。ここまで1話に割いた文章量を見て、読んでいただけた方は、私が「入れ込んでいる」という事が分かったはずだ。
そう、私の感想としてCharlotte第1話は、想像以上に面白かったのである。
「これはイケる」と、お伝えした通りKey作品との相性イマイチの私も期待が膨らんだのだ。
しかし残念なことに、全話視聴し終わった感想で言うと「そこそこ」だった。
もちろんアニメとして面白かったし、観て損をした等とは絶対に思わない。ここからの日常的でコミカルなやり取りと、怒涛の展開に、私が魅了されたのは確かだ。
ただ、本感想の大半を占める第1話で抱いた期待とは、別の作品となってしまった。
私が期待に胸を膨らませたのは、「現代で生きる10代が、特殊な能力を身につけても未熟で多感な学生らしい、姑息で時に純粋な失敗とそれに伴う反省からの成功を描く、身の丈にあった物語」であった。
無理に話にオチをつけなくても、まだ分からない未来に想いを馳せる若者たちの心情を描けば、心地良い余韻に浸れたはずだ。もしもそれらを完遂する事が出来ていたならば、皆さんの中ではどうかは分からないものの、私の中では間違いなく名作と疑いのない作品に仕上がっていただろうと、惜しんで止まない。
しかしこのCharlotte、全く観ずに置くのは勿体のない作品である。
興味のある方はぜひ期待なく観てみることをオススメする。