古川憂 さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.0
作画 : 5.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 2.5
状態:観終わった
大河内の言う『ライブ感』
『脚本の作り方としては上手くいったと思います。個々の脚本で心残りはあるけれど、最後までライブ感を失わなかったと思っています。』
以上は、本作のシリーズ構成を務める大河内一楼の、以前携わったアニメ作品『OVERMANキングゲイナー』のインタビューにおける自身の発言であった。
『コードギアス』『ヴァルヴレイヴ』『ギルティクラウン』、そして本作『カバネリ』と、彼の携わった作品を追っていくと、彼の言う『ライブ感』の意味が掴めてくる。結果から言えば、彼が脚本において重視しているのは、全体的に見た『勢い』であろう。シリーズ構成という立ち位置においては、物語全体の大まかな流れを統括する役割を担うこととなる。そして、彼がその位置についた作品において、話の勢いというのは念頭に置かれている事項であるのは火を見るよりも明らかだ。
ここ一点を重視しているがゆえに、彼の描く物語は大幅な破綻をきたす。
本作に置いて、まず一話Bパート、甲鉄城が駅内へと崩落してきてカバネの大群が流れ出し、内部でパニックが起こる場面、後半に差し掛かって美馬や狩方衆が駅内の情勢を荒らし、人類間でのパニックを引き起こす場面、カバネリを真核とした融合群体が駅をひとつ潰しにかかる場面、そういった派手な『見せ所』を随所に用意し、盛り上げようとしているのは安易に見て取れる。しかし、その場面に至るまでの人間心理の流れ、些末な描写の不整合が目立ち、結果的に、「画面内だけで盛り上がっている感覚」が拭い去れない。前半は未だ王道路線のゾンビパニックとして見どころもあったが、後半に差し掛かって美馬が登場したあたりからは、いつもの大河内脚本といったところ、前時代的に「トホホ」とでも言いたくなりそうな有様だ。
視聴者は派手な場面があれば盛り上がるというわけではない。あくまで、そこに至るまでの助走期間とでもいうべき箇所で盛り上がりを表現するのが力のあるライターの仕事である。アーティストがたゆまぬ努力によって知名度を上げ、ライブ会場に人を集め、そこで披露する曲が人の心を打つということを知らずして、大河内は、街中で突然爆音の楽曲を流し始めているようなものだ。これでは民衆は引いていくばかりだということを、今までの作家人生で理解できなかったのならば、彼は筆を折るべきかもしれない。
この悪癖は、台詞回しからも見て取れる。随所に決め台詞的なものを挟むはいいものの、ワードセンスを致命的に欠いているせいで、それが残らない。個人的に、台詞回しの一点においては、頭の隅に巧く引っかかる言葉を使える作家が優れていると考えているが、彼はその範疇には入らない。
『コードギアス』の頃は、まだルルーシュというキャラを立てることには成功していた。しかし、基本的にキャラの言動や行動に一貫性が無く、本作の主人公である生駒においても、その例に漏れない。キャラの整合性がとれない時点で、当然物語の核が見えるはずも無く、結局本作は成長も団結も勝利も描けていない。
率直に言って、今作に置いて光る部分すら見受けられなかったので、潮時だと思うのだが、どうだろう。
ただ、WITSTUDIOの制作するアニメーションに関しては、非の打ち所も無い。進撃の巨人や本作に置いて、アクションの作画に関しては不動の位置を築いたことは間違いない。映像としては一見の価値あり。願わくば、次は力量のあるライターと提携して、アニメ史に残る傑作を打ち立てていただきたいところである。