ペガサス さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
日本アニメが到達し得た極限
零式戦闘機を設計した堀越二郎の半生に堀辰雄の小説「風立ちぬ」を重ね合わせ描かれた漫画を原作とする、宮崎駿監督、脚本のオリジナルアニメ。
2013年劇場公開、子供向けアニメを作り続けてきた宮崎が大人に向けて制作した作品である。
ダンテがベアトリーチェのために引用したホメロスの言葉。
「彼女は人間の男のためにではなく、まさに神のためにつくられた娘なのだ。」
地獄から煉獄を遍歴するダンテは詩人ウェルギリウスによって導かれる。
人間の愚行を地獄に見て、煉獄の頂上に辿り着いたダンテの前に、遂にべアトリーチェが現れる。
ベアトリーチェとは超越的な愛の具現者である。
煉獄からさらに上昇するのは、詩人の言葉の力ではなく、愛の力でしか叶わないということ。
ダンテはベアトリーチェにより天国へと導かれるのである。
このアニメには慈悲がある。
それは大東亜戦争により散っていった御魂たちが救済を求めているかのようでもある。
敗戦により負った日本人の精神のトラウマは相当なものだったのだろう。
だからこそ人間の愚行を許して導こうとする、あの奇跡のようなラストは儚くも美しく感動的なのである。
主人公の二郎はどこへと導かれたのか。
人間は無知で愚かであるがゆえに、煉獄で生き続けなければならない。
それでも救済というものが確かにあることを、ここに見るのである。
日本人の精神が宮崎駿を依代として、このアニメを作らせたと言っても過言ではない。
ここにアニメという表現方法の一つの極限を見た思いがする。
宮崎駿という天才が辿り着いた成果として最後の作品に相応しい。
追記
主人公の二郎の声優を庵野秀明がやっているが、もしかしたらこのアニメはエヴァへのアンサーでもあるのかもしれない。
エヴァでは魂の救済を人類補完計画として壮大なビジョンで描くのだが、宮崎はそれを「飛行機が飛び立つ」というワンシーンだけで表現する。
これは魂が昇天するシーンとして見ることができる。
そこは昇天する者と地上に留まる者の分水嶺でもあるのだろう。
戦後が終わり時代が変わろうとしているこの時期に、日本人の集合無意識を代弁するかのようなこのアニメが作られたのは偶然ではあるまい。