古川憂 さんの感想・評価
2.9
物語 : 1.5
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
毒にも薬にもならない作品。本当に迷っていたのは脚本家の方
シリーズ構成を務めるのは『あの花』『花咲くいろは』他数々のヒット作を産んできた岡田磨里。
この脚本家の経歴を見ると、大きく区分して二系統に分けることができる。
まず、現代を舞台にした青春活劇。学生間の人間ドラマの形成が巧く、評価されている作品は大体こちら側に属する。
そしてもう一方で、特殊設定もの。『ブラック★ロックシューター』『M3』『wixoss』などがこちらに属する。これらの作品群に共通しているのは、心的な闇の世界を実際の架空世界(ディラックの海のような)として登場させ、現実世界と闇の世界との対立構造を描く点。
今作『迷家』は後者に属する作品であり、同時期に放映されている『キズナイーバー』は前者よりの作品であるように思える。
基本的な設定としては、現実社会に嫌気のさした30人の若者が「人生やり直しツアー」の名目でひとところに集い、わけありスポット納鳴村へと向かう——という、一時代前に流行った自殺サークルを彷彿とさせるもの(今でもあるのだろうか?)。
プロットに通底しているのは、この脚本家が昔から使いまわしてきた「トラウマの克服」であり、今までテーマとして明言されてなかったのに対し、今回はハッキリとそこを明文化しているように見受けられる。
まず、序盤。ホラー作品においては、敵の正体が見えるまでの不安を煽るのが一番の見せどころであり、その点においては、本作は悪くない魅せ方をしている。まるでいちどきに住民が消失したかのように生活感の色濃く残る村の風景、林立する樹木に刻まれた爪痕、夜中に響く不穏な音声、姿を消した一員——と、パーツの使い方はなかなかに効果的で、プロの仕事といった感は強い。強いていうなら、アニメ作品としては展開が遅々として進まず、一回一回の見せどころも強くはないため、興味を惹きにくいという欠点は見えるが、まだ及第点の範囲。
問題は、外的である「ナナキ」が姿を現して以降の展開だ。
心的外傷——PTSD、トラウマと呼ばれるそれが肥大化したイメージとして本人の背後から迫るというシチュエーション自体は、悪いアイディアではない。にゃんたの蜂のイメージなどは、なかなかに怖いものがあった。それに比すると、シリコンや電車や般若や木目やペンギンなど、他のキャラクターの傷のイメージは、ビジュアル面でかなり失敗しているように思える。PTSDを抱える経緯となる過去エピソードはありきたりなエピソードながらに巧いとは思うが、視聴者の共感を得る水準には達していないように思われる。
ナナキ登場以降に至っては、疑心暗鬼で泥沼に陥るというありがちな展開から、どうみても設定を詰め切れていないが故の拍子抜けな解決まで、岡田特有のセリフ回し以外に見どころのない話となる。
着想自体は悪くないのだから、キャラ数を半分以下に減らしてひとりひとりをもう少し掘り下げ、ナナキ周りの設定を詰め切れていれば佳作に成れた可能性はある。岡田は闇空間の構成技術の低さを自覚したほうが良いのではないか。
岡田磨里のファンであり、なおかつ氏の他作品は全て視聴した、というぐらいの人にしか進められない失敗作であった。