みかみ(みみかき) さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
これこそが敗北
記念碑的な作品といってよい。2016年6月14日現在、公開されているいま、まさにわたしは、コンテンツの歴史のなかの象徴的な一幕に立ち会っているのだ、という感覚を抱かせた稀有な作品だと思う。
『ベイマックス』のときに、日本のアニメがポリティカル・コレクトという点について負けたということが一部で騒がれたが、日本のアニメのみならず、エンタテイメントコンテンツが真に敗北しているということを実感せざるを得ないのは、この作品によってだろうと思う。
この作品が描いている「差別」の問題の精妙さがわからないとすれば、それはあなたが幸せな日本人だから、だと思う。
アメリカという国が、現在進行形で向き合っている差別をめぐる問題の複雑さを、これほど戯画的でありながら、その複雑さを表現しようとした作品に、惜しみない賛辞を送りたいと思う。
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あまりベタな解説をするのも面倒なのでしないが、この作品は差別反対の作品なのではない。差別は「反対」するものでもなく、差別という行為が野蛮な行為なのでもなく、過去のものでもない。差別という現実は、我々の日常的な現実のなかに忍び寄るようにして、それは適当な「良識的」な対応などによっては、容易に克服できないものとして忍び寄ってくるようなものとして在るのだ、と。そのことの克服しがたさと、にもかかわるず、それに我々は不断に立ち向かわざるを得ないのだ、という状況を、共有しようとする映画だ。
そして、それは残念なことに、日本国内に住んでいると、なかなか、意味がわかりにくい。
あまり、ベタなことを延々と解説する気力も時間もないので、やらないが、移民・難民問題がこれだけ世界秩序を崩しつつあるいま、この映画が多くの支持をあつめることは、本当に偉大なことだと思う。
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もちろん、この映画に支持できないところもある。ナマケモノの描写だけはいただけなかった。ダイバーシティを歌いながら、ナマケモノは結局、仕事の能力が低いということを揶揄してしまっては、それはダイバーシティという概念を、人間社会に翻訳しすぎようとしすぎたための失敗だと思う。
そのほかはパーフェクトすぎて、眩しい。目が潰れる。まぶしすぎて見られないぐらいに眩しい。
こういう映画をつくれる、コンテンツ制作体制を構築できたということも含めて、死にそうにすばらしい