ムッツリーニ さんの感想・評価
3.1
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 1.5
音楽 : 3.0
キャラ : 3.0
状態:観終わった
男女の矜持を簡潔に描いた苦い名作
宮﨑駿氏最後の長編作品となるであろう本作。
弟子である庵野秀明氏が主人公の声優を担当するということで、すでに嫌な予感しかせずに視聴を放棄していましたが、よくわからない気まぐれを起こして視聴しました。
さて、その感想はというと…うん、やっぱりダメでしたね。
話自体は凄く面白いし感動もしたのですが、物語としてどうというよりは、やってはいけないことをやってしまったのにそれを誰も指摘できない点がダメ。
物語は第2次世界大戦の直前。ゼロ戦の開発者である堀越二郎の半生を描いた物…………ですが、実在の堀越二郎の人生とは全く違います。
{netabare}Wikipediaで調べればすぐ解ることですが、妻である佐々木須磨子(そもそも名前が違う)とは見合い結婚でしたし、その後6人の子宝にも恵まれたそうで、物語の中にあるような、ヒロインである里見菜穂子との闘病生活なんて事実もありませんし、偶然の出会いからの恋愛結婚ですらありません。
遺族の了解は取ってるし、フィクションなんだから良いじゃないかって?
実在の人物をモデルにしておきながらフィクションとか片腹痛いわ。
ではこの設定はどこからでてきたのか。
一つは宮崎氏の父が主人公の下地にあるそうですが、それなら親父の話をしろよと。歴史上の偉人の人物像に混ぜ込むなよと。天下の宮崎監督ともなれば身内話で一本の映画を作ったって許されるでしょうに。受けるかどうかはともかく。
そして二つには原作である堀辰雄氏の同名小説ですね。
この小説は作者自身の経験を元に、サナトリウムで闘病生活を送る婚約者と「私」の姿を描いた恋愛小説で、こちらの主人公は別に飛行機の設計士というわけではありません。ヒロインの節子の趣味が絵という点は同じですが。{/netabare}
まぁ結局、この作品で宮崎監督が何をしたのかというと、「偉人と名作をかけあわせた挙句、それを自分の父親の人生と重ねている」という事なんですかね。
宮崎監督の父上がどれだけ偉大だったのかなんて勿論私は知るべくもありませんし、この作品を作ろうと決めた監督の心情も推し量れるものではありませんが、一つだけ言えるのは、人の人生に他人の人生や物語を毛皮のように被せるなんて行いは絶対にしてはいけないだろと言う事。
傑作「もののけ姫」でイノシシの皮を被った地走りの行いを卑劣で残酷な事として描いていたのに、描いた監督本人が同じことをしているのは………
最後のエンドクレジットで「堀越二郎氏と堀辰雄氏に敬意を込めて」と表されますが、こんな物で敬意を払われても、怒るとはいかないまでも困ってしまうんじゃないでしょうか。
さて、それでは肝心の本編はどうだったかというと…………うん、文句なく面白いです。
{netabare}関東大震災から第2次世界大戦という激動の時代に生きながら、早く美しい飛行機を作りたいという夢を追いかける主人公と、結核という病と闘いながらも愛する人のそばにいたいと願うヒロイン。職人の矜持と女の矜持がせめぎ合って絡み合い、しかしそこには確かな絆と真摯な愛があった。
ラストにヒロインが主人公の元から姿を消すシーンは思わず涙が出そうになりましたし、主人公が夢の中で「一機も帰ってきませんでしたが」とぼやくシーンは胸が苦しくなりました。
特に、病床に伏せるヒロインと隣で仕事を続ける主人公が手を繋ぐシーンは、二人の絆と人生と夢を象徴している名場面だと思います。{/netabare}
ただ、ジブリ自体の作風の変化とでもいうのか、「崖の上のポニョ」の時からどうも作画表現が絵本的というか。
特に関東大震災で地面が波打つシーンは流石に過剰表現過ぎて笑ってしまいました。(本来は緊迫したシーンですが)
事実よりも心情を優先した表現なのは解りますが、さすがにギャグにしか見えませんでしたね。
あと、水上機が離陸する際の水飛沫も明らかにポニョの時の作画を引っ張ってしまっていて、夢の中での出来事とは言えさすがに絵本的に過ぎるというか。
あと、観客を散々不安にさせていた庵野秀明氏の声ですが、まぁ当然のようにダメでしたね。悪い意味で素人感が出まくりで、全く合っていません。逆に上手かったら上手かったで「化け物かよ」という話になりますけど。
監督の声優嫌いはもはや常識というレベルで有名ですし………まぁそこはもう今更ということで。