「劇場版 ガールズ&パンツァー(アニメ映画)」

総合得点
79.1
感想・評価
893
棚に入れた
4553
ランキング
521
★★★★★ 4.2 (893)
物語
4.1
作画
4.4
声優
4.1
音楽
4.2
キャラ
4.3

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ネタバレ

renton000 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 3.5 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

話題だったので

 テレビ版全12話と映画版をまとめて。

 ちょっと悩みますね。面白かったけど面白くなかったとすべきか、面白くなかったけど面白かったとすべきか。
 はっきり言って、ストーリーはあまり良いとは思えませんでした。減点するほどでもないんですけど、加点するところも別にない。そういう意味では面白くなかったですね。

 一方で、戦車を使ったバトルはすごく良かったです。戦車の重量感も、大砲の音も、街の破壊っぷりも、すこぶる良い。特に緩急のつけ方が抜群でしたね。試合を見ているときはその迫力に引き込まれて行くんですけど、要所で上がる白旗に少しコミカルな感じがあって、ふと我に返させてくれます。
 緊迫した戦闘シーンって、長く続くとどうしても疲れちゃうんですよね。息をつかせぬ感じが、いずれ疲労感として跳ね返って来るんです。ですが、この作品では、引き込んだ後に白旗で一息つかせて、また引き込んで、という繰り返しの波がありました。疲労を感じずに長く楽しめる。

 この良さが特に出ていたのが映画版の方ですね。映画版は、オープニングにバトルがあって、大して目新しくもない動機付けが入って、ラストバトル、という構成になっているんですけど、ラストバトルだけで一時間あります。全部で二時間の映画で、後半の半分がずっとラストバトル。この構成を成立させちゃうのもすごいですし、これを間延びさせないでできるのもまたすごいです。上手く緩急を付けられなければ、こんなことはできないですよね。この辺は監督の手腕かな。


 この作品って、ストーリーを重視するのかバトルを重視するのかで、評価が変わってしまうと思います。ストーリー重視なら大して評価しないでしょうし、バトル重視なら傑作にする人がいても不思議じゃない。
 私は、ストーリーの上にどれくらいの演出が乗っているかを気にしているので、なんだかんだ言ってもストーリー派なんですよね。バトルの作画は、悪すぎない程度なら満足します。ワンパンマンはよく動いていましたけど、ストーリーに関連した演出には見どころが少なかったので、ふーん、で完走させずに終えちゃいました。

 で、この作品ではどうなのかって言うと、少し複雑な気持ちです。テレビ版ではなく映画版ですけど。
 見終えた直後は、ふーん、でした。二回目の視聴はいらないやって感じです。でも、一晩経って、いろいろ考えて、シーンも反芻して、とやっていると、少しずつ気になって来るんですよね。あのバトルシーンはどうなっていたっけな?という疑問が、いくつか出てくる。私はアクション主体の映画にこういう感覚を持つことが少ないので、この作品にはストーリーを度外視した魅力があるんだろうな、と考えを改めつつあります。迫力もあって、気になるところも出てくるなら、何度も映画館に通ってしまう気持ちは分かりますね。

 この作品を凡作に置くか名作に置くかはもうしばらく悩むとして、思ったことをいろいろと。


ストーリー:{netabare}
 「ガルパンおじさん」て言葉をしばしば見かけて、実際にガルパンファンがおじさんなのかは分からないですけど、私は妙に納得しました。少なくとも、男性に人気が出たのは分かりました。それは、かわいい女性キャラが出てくるからってことじゃないんですよね。題材が戦車だからっていうのは当然あるんですけど、この作品のプロットの影響も大きいような気がします。この作品のプロットは、ドラゴンボールなどのインフレバトルマンガに近いんです。

 インフレバトルマンガの基本て、「倒した敵よりも強い敵が出てくる」ところと、「倒した敵が味方になる」ところにありますよね。この二つが合わさって、「あんなに強かった敵が仲間になったのに、その人と協力しても勝てないようなさらに強い敵が出てきた」となって、これがインフレを誘引するんです。
 テレビ版ガルパンでは、「倒した敵よりも強い敵が出てくる」のをやっていました。そして、映画版ガルパンでは、「さらに強い敵が出てくる」のと「倒した敵が味方になる」のをやっているんですね。プロット自体がインフレバトルマンガにすごく近い。

 バトルマンガがインフレしちゃう原因は上記以外にもあって、それは成長の描き方です。別レビューにも書いているんですけど、ここでも重ねて書いてしまいます。
 心の成長を描くときには、心理上の挫折が必要ですよね。心理上の挫折を経験するから、心が成長する。でも、バトルマンガでは、これが簡略化されてしまいます。バトルマンガは、心の強さと肉体的な強さが強くリンクしているために、「勝利できる力を獲得できれば、心も成長している」という逆読みが可能になっているんです。
 そのため、「心理上の挫折→心的変化→心の成長」という構造ではなくて、「苦戦or敗北→心的変化→勝利」という構造を繰り返してしまうのです。心の成長を描かずに、肉体的な成長で代替してしまうってことです。ですから、必殺技とかの力勝負になりがちになって、バトルのたびにインフレして行くんですね。

 これはガルパンでも同じで、ガルパンのキャラクターたちは、心の成長がほとんど描かれていないですよね。登場時の人物像とエンディングでの人物像に、ほとんど差がないんです。
 特徴的なのが、映画版のネトゲチームですよね。ラストバトルに向けて、筋トレを始めてしまう。心の成長を描くんだったら、筋トレをするという決断に至る前の、心の葛藤が必要ですよね。この葛藤を経て、現状ではダメだと気付いて、新たな決断する。この心的変化による心の成長の後に、筋トレの実行が付随するはずなんです。でも、ガルパンではその過程をすっ飛ばして、いきなり筋トレという肉体的な成長に突っ込んでしまうんですね。
 これは、テレビ版でも同じでした。テレビ版では、戦車の増強をもって成長が片付けられています。試合後に、心を成長させるのではなくて、戦車(肉体)を成長させているんです。

 ガルパンで、心の成長が描けなかったのか描かなかったのか、というと、描けなかったんだと思います。ガルパンでは、登場人物が非常に多いために、分かりやすい記号的キャラクターを配置しなければ個性が成り立ちませんでした。そして、記号的キャラクターは、心の成長とは隔離されてしまうんです。簡単に言うなら、ツンデレキャラは最初から最後までツンデレであることを求められるから、脱ツンデレという成長はさせられないってことです。

 テレビ版に、主人公と華道の子の母子関係が改善する、という話が入っているんですけど、ここすらも子供側の成長によって関係が改善したわけではありませんでしたよね。子供側は自分たちの信念に基づいて行動していて、母親側が自分とは違う子供たちのやり方を認めてあげる、という方法で母子関係が改善していました。この母子関係の改善は、母親側の許容が拡大したことによる恩恵であって、子供側の成長ではないですよね。キャラ固定された子供側を成長させられないために、母子相互の歩み寄りにはできなくて、母親側が一方的に歩み寄る形になってしまったんです。

 結局のところ、ガルパンはインフレバトルマンガのテンプレから外れていないんですよね。
 ストーリーのプロットは、敵が強くなって敵が仲間になる、をやっている。成長は、「心理上の挫折→心的変化→心の成長」ではなくて、「苦戦or敗北→心的変化→勝利」になっている。減点するところも加点するところもないのは、テンプレとほとんど差がないからっていうのが大きいです。

 で、インフレバトルマンガの形態を採っていても、ガルパンがそれほどインフレせずに済んだのは、戦車のスペックという歯止めが掛かっていたからってだけですよね。どんなにアクロバティックな動きをしても、現実の戦車から過剰に逸脱することはできなくて、機体が変わる程度のインフレにしかできないんです。ガルパンがパッと見でインフレバトルマンガに見えないのは、インフレの程度が極めて小さいからってだけだと思います。

 ガルパンは、少年マンガ的なインフレバトルマンガを踏襲しているからこそ男性に人気が出やすくて、また、インフレバトルマンガの中でも比較的古典的な形態に近いから「ガルパンおじさん」なのかな、と思いました。もちろんこれは、私が「妙に」納得した部分だってだけですけどね。基本は、戦車のカッコよさ在りき、だとは思います。

 ちなみにですけど、私はインフレバトルマンガっていうのをネガティブには使っていませんからね。「インフレ型だ」って言うと、どうしても批判的に捉える人がいるんですけど、私はそうは思っていません。私にとってのインフレバトルは、少女マンガにも青年マンガにもない、少年マンガの様式美です。少年マンガの到達点の一つだと思っています。
 心の成長が描かれていないっていうのも、減点箇所ではないですからね。心の成長を描こうとしていないスタイルなんだから、心の成長が描かれていなくても問題はありません。
{/netabare}

バトル:{netabare}
 ちょっと残念に思ったのが、敵味方の識別に困ったことですね。どっちがどっちの戦車なのか分かりづらい。

 私はキャラクター以外では、車体に貼ってあるステッカーか、背景との相対的な位置関係で両チームの識別をしていました。ステッカーにしろ位置関係にしろ、パッと見での識別はできませんから、理解するまでにちょっとした間が生まれちゃうんですよね。車体の見た目で識別できるのがベストなんでしょうけど、さすがにそれはムリでした。戦車の知識なんて皆無に等しいですからね。

 ゆっくりカメラで追っているときはこの識別方法で問題ないんですけど、カメラスピードが上がってくると対応できなくなっちゃうんですよね。背景が街のような特徴のあるものじゃなくて、草原や森だと相対的な位置関係にも頼れないから、なおさらキツイ。カメラの主体が敵味方で切り替わりだすと、お手上げに近くなってしまいました。

 両チームの判別ポイントがもう少し欲しかったですね。個人的には紅組白組で車体の色を分けてもいいんですけど、リアリティの面で嫌う人は多いでしょうから、リアリティとスポーツの狭間ぐらいが現実的ですかね。
 キャラクターが顔を出しているときは問題ないので、キャラクターが引っ込んでからも分かるのが良いってことを考慮すると、入り口の蓋の色が両チームで違う、とかですかね。ここなら、隠密行動中は葉っぱとかを乗せているので車体の色ほどには影響がないですし、蓋を閉めて高速で動いているときでも分かりますし。
 まぁ、識別できるならどこでもいいんですけど、もう少し配慮が欲しかったですね。

 もちろん、演出としてどちらのチームか分からなくしているところは別です。敵味方の車両がぐるぐる回りながら同時に撃って、さぁどっちが白旗?というときは、識別できなくて問題ないです。
{/netabare}

こまごましたこと:{netabare}

①水島努監督
 気になって過去作を調べてみたんですけど、有名な監督なんですね。私が知っているところでいうと、ガルパン以外はSHIROBAKOと監獄学園で監督をしていました。あとは、クレシンおとな帝国の絵コンテくらい。
 なんというか、良くも悪くも特長がないですよね。監督歴を時系列で並べると、ガルパン→白箱→監獄なんですけど、あまりつながりが見えて来ません。同じ監督だとは全く気づきませんでした。
 まぁでも、特長がない代わりに、悪いところもないんですけどね。ホームランを打つタイプじゃなくて、ヒットを量産するタイプといった感じです。これだけヒットが打てれば、むしろすごいんでしょうけど。

 でも、個人的には、水島監督だから見てみよう!にはならず、水島監督なら安心だ、くらいですかね。
 私は尖った監督が好きなので。


②ガルパンとハイフリ
 ハイフリはあまり見てないので、内容については特にありません。絵的な面白さについて。

 ハイフリって、基本的に船内と船外しかないんですね。どのシーンを切り取っても、船内か船外。変化がないせいで、絵的には全く面白味がないです。スピード感も背景が海だと出ないですよね。波の違いしかないですから。

 ハイフリを先に見ていたこともあって、ガルパンでも少し気になっていました。
 ガルパンも基本は車内か車外なんですけど、やっぱり地上は動きがありますよね。草原や森や丘も多いですけど、街中っていうのが良かったです。変化も出るし、スピード感も出る。街中でドンパチやっていいという判断は、当たりですよね。
 設定好きだと、修繕費はどこから出るんだ?とか気になっちゃうんでしょうけど。
{/netabare}

雑記:{netabare}
 ここ数年、航空ショーの観覧に行っているんですけど、なかなか楽しいものです。目玉は、ブルーインパルスっていうアクロバットチームの演目ですね。今使われている機体は二代目で、T-2と呼ばれる超音速高等練習機だそうです。高速で飛行する姿は、まさに風を切るって感じがします。
 私はあまりというか全然機械系や工学系に詳しくないんですけど、それでも戦闘機の洗練されたフォルムには美しさを感じてしまいます。ただひたすらに速く飛ぶために作られたフォルム。刀剣に感じる美しさに近いような気がするので、機能美になるのかな。この美しさに魅せられると、風立ちぬの二郎君みたいになっちゃうんでしょうね。
 映画版ガルパンには輸送機が出てきていましたけど、あれはダメですね。美しくないし、カッコよくもない。やっぱり飛行機が好きってわけじゃなくて、機能美が好きなんでしょうね。

 戦車は美しいというよりはカッコいい、ですかね。ゴジラに感じるカッコよさに近い気がします。無骨さと力強さが入り混じったカッコよさ。このカッコよさに女の子のかわいさを乗っけるっていうのは、良かったですよね。妙な組み合わせではなくて、組み合わせの妙になっていました。

 ところで、ガルパンで使われた戦車の実物は、どこかで見れるんですかね?
 なま戦車、ちょっと見てみたいです。
{/netabare}

投稿 : 2016/06/11
閲覧 : 359
サンキュー:

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