みかみ(みみかき) さんの感想・評価
3.3
物語 : 3.5
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
よし、観終わった!
ラスコーリニコフさんが激推しだったゆえ、観たよ。
さきほど、110話まで完走@2011年12月31日。
長かった…本当に長かった。
とりあえずの印象は、歴史小説とSFをまぜまぜしたのね、といった感じ。あとは、民主主義論とか。
まずは、まあ観てよかったな、とは思う。娯楽としてはガンダムとかにはかなわない気がするが、政治論とかとしてはガンダムとかより遥かに真正面からやっている。
ちょっと、言葉の選択の水準とかが人を選ぶな、とは思うけれども、まあいいのかな。
とりあえずのメモ
■30年以上前の左翼系論壇の影響が濃厚な件について
・民主主義の世界観において戦うこと、のバランスの体現としてヤンウェンリーの立場はたしかにすばらしいとは思う
・ただ、これは70年代ぐらいの左翼系の民主主義をめぐる政治哲学系の論争をうけて作られている想像力だろうという気がする。鶴見俊輔だとか、そこらへんの世代の議論だろうな。2011年現在の政治にかかわる想像力はもうちょっと別の広がりをみせているので、ちょっと一時代前だという感覚は拭えない。
・一応調べてみたら、田中芳樹は1952年生まれらしい。そして、本作は1980年代中盤以後の作品。なので、1970年代~80年代前半の日本の言論界の影響が濃く出ているというのは、世代的にいってもほぼ確かだろう。
・80年代中盤における、軍事オタ・歴史オタ・思想オタ・アニオタの誰もが納得の一品として本作が存在しているのであろうことはよくわかった
■小物の描写がいい感じだった
・ヨブ・トリューニヒトとか、小物のラングの描写とかが何気にかなり気に入りました。アニメなので、「いかにも」な振る舞いの人格として描かれているけれども、たぶん田中芳樹の小説だともう少し違う雰囲気になってるのだろうな、と思う。小物であるラングが、ほとんどの登場人物よりも「良き父であり、良き夫である」といったことを付け加えるあたりとか、トリューニヒトに何気に見るべきところがある人物であるとか、そういう話はすばらしい。
・ジョアン・レベロ議長の書き方もよかった。政治家の才能のあり方が時に応じて異なるというはなしはそうだろうな、という気がする。
・傑物の書き方は、いかんせんお伽話であらざるをえない感じがけっこうするが、ちょっと小物ぐらいの人の描写が光っている。また、こういう小人然とした人々の権利をラインハルトに「毛嫌いするべきではなく、権利をまもってやるべき対象」として言わせているあたりもいいね。
・グルックのような登場人物にたいして「ああいう、凡庸な人間が仕事をできる体制を構築しなくてはいけない」ということを言わせているのもよかった。
・「小物」の人の描写がある程度ひかっているが、だいたいにおいて「小物」の役回りがそこまで決定的に機能していないというのは個人的にはやや不満。小物、の小物然とした振る舞いの束をいかに制御できるか、ということこそが巨大な組織や人々を動かしていく上で、けっこう実質的には大事なこと。個人的にはそこらへんのほうがwktkする。けれども「英雄」たちの話であるがゆえに、まあ、仕方ないのかな。基本的には三国志とか水滸伝とかあそこらへんの話のノリを継承しているわけだしな。
■英雄の描写に関しては…まあ娯楽作品だ、ということで。
・しかし、ヤン・ウェンリー的なゆるゆる系の指導者の存在はきわめて困難だろうと思う。作戦指揮まではいけても、あれだけのゆるキャラが指導者だった、ということは実際にはほとんどしらない。学者肌の人ではああいう人はいるけど。
・ラインハルトが短期な性格として描かれているが、あれは少し納得できる感じがある。一代で名を成す人が短期であるというのは個人的な実感としてもよくわかる。
・オーベルシュタインは比較的よかった。堅物、描写としては。
・お伽話感が強いのは:ラインハルト、ロイエンタール、ミッターマイヤー、ビュコック、シェーンコップあたり…。
・ラインハルトの政権だけど、地方の革命政権とかだと、若い人たちばかりで上層部が占められていることがよくあるんだよね。それは。でも、そういうタイプの政権って、コネがうすかったり、対応能力の幅に限界が生まれがちで、若い人たちオンリー政権って、コロッと極端に変なところに走りやすい。たとえば、フランス革命におけるロベスピエールらのジャコバン派の政権だとか、最近だとアフガニスタンにおけるタリバン政権だとか。タリバン政権なんて、それこそラディンにコロっとやられてしまったわけで。
・まあ、でも、そういうタイプのイデオロギーを紐帯とした革命軍じゃなくて、ナポレオンとかの出世プロセスとかのイメージなのかな…。でも、なんかそこらへんのイメージがちょっと掴みかねるんだよな。
■その他
・SFとしての評価は、今現在みるとちょっと厳しいな。コンピュータの描写とか。
・まあ、でも、とりあえず褒められている当該のものがなんであるかということは理解したし、まあ、なるほどね、という気分にはなりました。何か抜けている穴が埋まったな、という感じ。
・ただ、2011年末の現時点で、「教養+ファンタジー小説」ということであれば、今のところ私のイチオシは、ママレさんによる『まおゆう』が、あまりにも突出した存在になってしまっていますが、80年代においては、本作はやはり傑出したものだったというべきなのでしょう。
■追記:
外伝をみておもったけれども、銀英伝における「名言」のあり方って、物語作法に沿ってないからできるんだな、と思いました…。ということを外伝のほうのレビューに書いたよ。