renton000 さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.0
作画 : 4.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
あれっ?
新海監督のZ会CM120秒バージョンです。
新海監督の特長は、実写的なカメラ演出を多用するところにあると思います。「この作品はカメラで撮影しているよ!」という演出をたくさん入れるってことですね。この作品はCMですから、内容に触れる必要はないと思います。演出部分を中心に見ていきます。
レンズ効果:{netabare}
「この作品はカメラで撮影しているよ!」というのがどこに強く出るかというと、その一つにレンズっぽさがあると思います。これを実際のCMを見ながら確認していきます。↓Z会CMリンク↓
<https://www.youtube.com/watch?v=AfbNS_GKhPw&feature=player_embedded>
再生ボタンを押してすぐに、一時停止をしてください。画面の右下に、カモメがアップで写っているところで止められればベストです。表示上のタイムは1秒ですが、フレーム単位なので調整が必要になります。再生開始後に再生&一時停止のボタンを連打して、上手いこと調整してください。すぐにできると思います!
この画面の半分より下くらいに、細かい光の点がたくさんあるのが分かりますかね? 右下のカモメの手前にも細かい光の点が現れていると思います。動画のスタートからこのカモメアップまでをコマ送り(という名の連打)をしていると分かるんですけど、この光の点の場所は変わっていないですよね。景色の中にある光が映り込んでいるわけじゃないってことです。動かないのは、レンズに原因があるからです。
この光の点は、レンズに付着した汚れ(ホコリとか傷とか)に、光が乱反射することで発生したものです。たくさんありますから、かなり汚いレンズで撮影しているってことですね。アニメの撮影にあたって、実際のカメラで撮影しないと現れないレンズ汚れを演出として入れているのです。これが「カメラで撮影しているよ!」演出の①です。
なお、コマ送りで光の点のサイズが変わっているのも分かると思うんですけど、これはピント調整の影響を受けているだけですね。ピントを合わせる箇所によって、くっきりしたりボケたりするからサイズが変わっているように見えるのであって、実際にサイズが変わっているわけではありません。ピントについては、次項で改めて書きます。
また、開始1秒のところ。
画面の右上に、画面中央に向かう虹色の筋があるのが分かりますかね? これがゴーストです。ゴーストっていうのは、光源から出た光がレンズに反射することで像となったものです。太陽を写真に収めたときによく見られます。これも、カメラのレンズで撮らないと発生しないものです。これが「カメラで撮影しているよ!」演出の②です。
新海監督は、ゴーストを入れる頻度が非常に高いです。画面内に光源があればほぼ確実に入れてきますし、画面外の光源を意識しているときにも入れています。このCMにも複数回登場しますので、気が向いたら探してみてください。
{/netabare}
ピントと被写界深度:{netabare}
ピントの話というか被写界深度の話なので、まずはその説明から。被「写体」深度ではなく、被「写界」深度です。
とりあえず、次のリンクを開いてください。ウィキペディアのパンフォーカスのページです。ページの右側に、二枚の写真が貼り付けられていると思います。上がパンフォーカスの写真で、下がパンフォーカスでない写真です。
<https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%82%B9>
被写界深度っていうのは、どこからどこまでピントが合っているのか、というピントの範囲のことです。
下の写真は、手前のバラはくっきりと写っていますが、中央左のバラや奥の洋館はボケてしまっていますよね。ピントが一部分にしか合っていないってことです。このときの状態を「被写界深度が浅い」と言います。
ここから被写界深度を深くしていくと、ピントの合う範囲が拡大していきます。
そして、いずれ画面全体がくっきりと写るようになります。これが上の写真です。手前のバラも中央左の人物も奥の洋館もくっきりと写っていますよね。この全体にピントが合った(被写界深度がすごく深い)状態を、特に「パンフォーカス」と言います。
話をCMに戻します。またまた、開始1秒のところ。
右下のカモメはくっきりと写っていますけど、奥のカモメたちはボケてしまっていますよね。被写界深度が浅めで、奥のカモメたちにはピントが合っていないってことです。コマ送りすると、ピントが移っていく過程も確認できます。この次にある女の子が船を送っているカットは、手前の船も奥の船もくっきりしていますから、全体にピントが合ったパンフォーカスの状態ですね。(止めた場所によっては、女の子の頭がボケているように見えるかもしれません。でもこれは、ピントによるボケではありません。海面で反射した光が頭に当たり、その輪郭をボカしてしまっているだけです。)
このように、この作品では、動きや場面に合わせてピントを切り替えているのが分かります。カメラで撮っているからピントの影響が出てしまうわけですから、これが「カメラで撮影しているよ!」演出の③になります。
オープニングのわずか数秒のカットなんですけど、ここで三つの「カメラで撮影しているよ!」という演出を同時に使っていますよね。レンズ汚れとゴーストとピント。新海作品には、映像がきれい!という指摘が多いんですけど、個人的には新海監督の特長はそこだとは思っていません。新海監督の特長は、「カメラで撮影しているよ!」という徹底された実写的演出にあると思います。
{/netabare}
おまけ①新海監督史:{netabare}
新海監督の作品を時系列で並べていくと、カメラ演出との戦いであったことが伝わってきます。
デビュー作の「ほしのこえ(2002年)」では、ゴースト(レンズフレア)は入れていたと思いますけど、ピント調整は行っていなかったと思います。ずっとパンフォーカスの状態。
その次の「雲のむこう、約束の場所(2004年)」で初めて背景のボカシ処理をしていた気がします。途中で寝てしまったので、あんまり覚えてないですけど。
「秒速5センチメートル(2007年)」では、被写界深度がすごく浅かったのを覚えています。少しカメラが寄っているだけで、背景がすぐにボケちゃうんですね。くっきりさせずにボカした背景は、切ないストーリーとよく合っていました。
途中を省きますけど、このZ会CMの「クロスロード(2014年)」では、大分落ち着いていますよね。「秒速」のころの浅さ一辺倒ではなくて、被写界深度が浅い状態から深い状態までを複数使い分けているように感じます。このレビューのタイトルの「あれっ?」っていうのは、「被写界深度が浅い」っていう新海監督のイメージと違うところから付けました。
作風が変わったのかどうかまでは、この一作品だけでは判断できないですけどね。とある事情もありますから。
その事情については、48秒から49秒のカメラワークと被写界深度の浅さ、57秒のパンフォーカス、この辺りを見てください。なぜここがこういう演出なのかを考えれば、すぐに分かります。ですよねーってなります。44秒のコンビニバイトのところで、パンフォーカスにできない理由も面白いです。こちらも、ですよねーって感じです。この辺の意識付けというか制約というか、そういうものが多様な被写界深度の理由なのかもしれません。
なお、どの作品も見返したわけではなくて、記憶を頼りに書いています。
あんまり当てにならないので、信用しないほうがいいと思います。
{/netabare}
浅い被写界深度とその効果:{netabare}
被写界深度を浅くすることで、どんな効果が出るのかを考えていきます。
この効果は主に二つあると私は考えていて、一つ目は視線の誘導、二つ目は距離感です。
一つ目の視線の誘導というのは、上で書いたとある事情のことです。48秒のところでは、Z会のロゴを見せようとしていますよね。44秒のところでは、未成年向けのCMのためか、タバコを見せまいとしています。
Z会のロゴを見て!とタバコを見ないで!というのを、被写界深度を浅くすることでやっているんです。おそらく、視聴者の視線がピントの合っているところに誘導されてしまうことを利用しているのでしょう。
二つ目の距離感。被写界深度を浅くすると、奥行きが出ます。ウィキの写真を見比べれば分かると思いますが、背景がくっきり見えていないと、「なんだか遠くにあるなぁ」って感じがしますよね。ピントの合っているところと合っていないところで、物理的な距離感が出てしまうんです。ただ、表現としては、この物理的な距離感ではなくて、心理的な距離感の方を私は重視しています。
例えば、授業中の教室を思い浮かべて、主人公の男の子が一番後ろの真ん中の席に座っていて、教室の右前方に座っているヒロインの女の子を見つめている、としますよね。主人公がヒロインに片思いをしている、という前提で。
このとき、カメラでどう撮っているのかというと、大体は主人公の後ろにカメラを置いて、画面の左下に主人公の肩から上、画面の右に座っているヒロインの全景、が収まるようにしていると思います。そして、ここでヒロインにだけピントを合わせて、主人公の方はボカすんです。こうすることで、主人公とヒロインの間に物理的な距離感が出ると同時に、「憧れているだけで近づけない」という心理的な距離感も出てきます。
実際の作品を例にするなら、「一週間フレンズ」の第一話の演出が印象に残っています。これについては、「一週間フレンズ」のレビューに載せておきます。カメラワークの話もあるので、このレビュー読了後にどうぞ。
こういう被写界深度を使った演出って、ここぞ!でやるべきだと思います。いつも浅いとかいつも深いとかだと、これを表現したいんだ!っていうのが見えなくなっちゃいますからね。「秒速」では被写界深度の浅さばかりが目立っていたんですけど、このCMではいろいろ使い分けが見られたので、素直に良かったなと思いました。
{/netabare}
おまけ②カメラワーク:{netabare}
カメラワークについてなんですけど、めんどくさいのでティルトだけ。
ティルトは、カメラを上下に動かすことです。地上にいて「このビル高いなぁ」って見上げるときの動きをティルトアップと言います。下から上にカメラを振ることですね。逆に、上から下にカメラを振ることをティルトダウンと言います。
心理描写としては、見上げるティルトアップが上向き(プラス)の心理状態、見下ろすティルトダウンが下向き(マイナス)の心理状態、として使われることが多いですね。このCMでは両方使われていて、この二つの組み合わせ効果がよく出ていると思います。
40秒のところの全景で、ティルトダウンしています。次のカットが男の子の上半身アップ。大きな街にいるちっぽけな存在って感じがよく出ていますよね。「そろそろ塾だ」からコンビニでの「勉強大丈夫かなぁ」までで、「この男の子は大変そうだなぁ」って考えてしまうと思います。ティルトダウンによる心理的なマイナス効果をスタートとして、男の子の大変さアピールが始まっているってことです。
先生の「単純なミス」というマイナスセリフが、「イイ答え!」に変化して、心理状態が上向きになります。このあとの全景からティルトアップが始まります。1分6秒のところです。ティルトアップはここから3カット分続いて、男の子が実際に顔を上げたところで終わります。
ティルトダウンの心理下げを1カットやった後に、ティルトアップで心理上げを3カットと長めに入れて、上向き男の子、試験開始、という流れになっていますよね。プラスの心理状態のほうが強調されています。もちろんこれは、合格おめでとう!への布石だと思います。
この作品は二分しかないですけど、カメラの演出関係は充実していたと思います。
{/netabare}
雑記:{netabare}
実写的なカメラ演出を入れているのは新海監督だけじゃないですけどね。今や単なるスタンダードです。
今週は比較的暇だったので、今期の作品をいろいろ見ていたんですけど、ほぼすべての作品で背景のボカシ処理はしていました。顔や胸から上のアップを撮っているときには背景をボカす、というのがパターン化されているようです。一番気を使っていそうなのは「ふらうぃ」かな。ゴーストも結構入れています。このレビューも、もともとは「ふらうぃ」のところで書こうと思っていたくらいですからね。すみっこでやりたかったので、こっちにしちゃっいましたけど。
昔の作品は、こういう実写的な背景ってやっていなかったですよね。マンガの背景と同じだったと思います。マンガの背景はピントの概念を持っていなくて、背景の線もくっきり引くんですよね。奥行きは、線の太さと陰影で出しています。今期の作品でマンガ的背景を使っているのは、ショートアニメを除けばジョジョくらいですかね。なんていうか、清々しいくらいにくっきりしてます。
アニメは今後も、こういう実写に寄った演出が中心になるんですかね? 私は別に、実写的演出だからすごい!と言う気は全くないので、「ただやっている」よりも「効果的にやっている」のを見せて欲しいですけどね。
で、この実写的背景がいつから始まったのかが気になって調べようと思ったんですけど、結局分からず仕舞いでした。残念です。新海監督が広めたってのはあるかもしれませんけど、元祖はどの作品なんですかね? 新海監督史から察するに、2000年前後から探るべきだとは思うんですけど。
このことを調べているとき「アニメ 被写界深度」でググってもみたんですけど、衝撃の結果が!
上位はユーフォが独占していましたね。衝撃じゃなくて、当然の結果なんですけど。私もユーフォレビューで少しだけカメラ演出に触れましたけど、触れざるを得ないくらいに力が入っていましたからね。そして、心理効果もめちゃくちゃ出てました。検索結果の上位にあるユーフォ記事は、読んでおいたほうがいいと思います。
あと、画像付きのアニメ解説が新鮮でしたね。ここ以外のアニメサイトをほとんど見たことがなかったので。
私もいつか、画像付き、やってみたいです。
カメラ演出の話が好きな方は、一週間フレンズの方もどうぞ。
{/netabare}