東アジア親日武装戦線 さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
過ぎたるは猶及ばざるが如し
1.作品概要(行短縮の為ににたたみます)
★【制作スタッフ】
{netabare}原作・脚本:林直孝
監督:藤原佳幸
キャラクター原案:okiura
キャラクターデザイン・総作画監督:中島千明
プロップデザイン・総作画監督:菊池愛
メカニカルデザイン:谷裕司
アニメ制作:動画工房
★【主要Cast】
水柿ツカサcv内匠靖明(主人公)
アイラcv雨宮天(ヒロイン)
★【OP、ED曲】
OP「Ring of Fortune」
作詞 :林直孝
作曲/編曲 :千葉"naotyu-"直樹
歌:佐々木恵梨
ED「朝焼けのスターマイン」
作詞:林直孝
作曲 :石田秀登
編曲:Tak Miyazawa
歌:今井麻美{/netabare}
原作と脚本の林氏はMAGES.所属のゲームシナリオライター、本作はオリジナル脚本です。
なお、つい最近本作のゲーム版が発売されました。
監督の藤原氏は現在動画工房所属で『GJ部』『未確認で進行形』『NEW GAME!』など4コマ原作の作品では高い評価を得ていますけど、オリジナルは本作が初めてです。
なお、リアルタイム視聴でその後再視聴もしていないことから記憶の範囲でのレビューですので、精度は欠いているかもしれません。
2.レビュー
{netabare}内容は、アンドロイド(本作設定ではギフティア)とヒューマンのストレートな純愛ストーリー。
あらすじは上のリンクに書かれていますので省略します。
序盤からバッドエンドが予測されるストーリーですので、1話と12、13話を除き各話の内容はストーリーの流れの上ではそれぞれの有機的な連関は希薄であり、ゆえに1クールの尺が冗長だと思われるかもしれません。
しかし、各話エピソードの重心はセリフや展開ではなく、全話通して丁寧に描かれたエピソードの中で見せるアイラの仕草さや表情に仕組まれたメタファーであり、その行間を読み取り感情移入が出来れば十分に楽しめる作品です。
さて、本作の特徴であるメタファー演出は、ジブリ作品でもよく用いられていますけど、映画や実写ドラマの手法に近くアニメ離れをしているために一般的にはどうかな?という問題点も含みます。
推測ですけど、本来感情を保有しないアンドロイドがヒロインのストレートな感情表現を施すと、近未来のSF設定も相まり一歩間違えると基軸が真面目な純愛がテーマの物語そのものが中二病的な軽薄さを伴いかねないリスクもあり、ストーリーに重厚感を醸す意味でも「感情は無くても有るんだ」この矛盾定立を間接的に視聴者に判断させる意図がメタファー演出の多用に繋がったのかもしれません。
最終話に近づくにつれアイラの感情表現が豊かになっていき(それに比してツカサのメタファー演出が増えていく)ますけど、序盤中盤のメタファー演出の効果か?違和感を感じることはありませんでしたし、メタファーの主客逆転手法は、死に向かう覚悟を決めつつあるアイラの心理と、近く訪れるアイラの死の現実に悩み苦しむツカサの心情との陰影にメリハリをつけ、視聴者の感受性を増幅させる極めて高度な演出テクです。
中盤から後半にかけてのツカサとアイラの思い出作りやハプニングのエピソードはメタファーの定番「ポエム」演出ですけど、本作で用いられている独特な演出の特徴を掴まないままに視聴を続けると、肝心の物語の軸がストレートであるが故に、軸と直結しないドタバタエピソードの存在も含め、中弛み感が強く展開の足踏みにイライラするかもしれません。
私はこの演出に騙された方ですので、ツカサがアンドロイドのアイラに恋愛感情を抱くことに疑問を抱かず入り込めましたし、メタファーが織りなすアイラの感情変化と待ち受ける運命がアイラの切ないじらしさを引き立たせ、アイラを愛したがゆえに苦悩するツカサの辛い心情には多いに共感をしましたし、アイラが死ぬま迄の最後の二話は涙腺崩壊の感動ものです。
実際、最終回でアイラの死後の手紙をターミナルサービスの面々が読むシーンでは、年甲斐もなく瞳が潤んでいました。
また、本作とダイレクトには繋がりませんけど物語の軸である「死の前提」においては、末期癌や難病で死期が告知された方々との間の取り方や接し方など、本作からは考えさせられることも多岐に及びました。
本作での救いは、アイラ本人は辛くても起動停止という「死」を受け容れることで、その死はアイラにとってけっして不幸なことではなかったことは、ツカサに抱かれた死後の安らかな表情描写をメタファーとして表現されていました。
バッドエンドがお約束のストーリーでも悲愴な鬱展開を避け、ツカサに悲しさだけではなく希望を持たせた締めは方はとても秀逸だと思います。
しかし、深夜アニメでメタファー演出を用いても理解されなければそれまでであり、本作の評価が両極に振れる傾向にあるのは演出の特性上、視聴者属性にどうしても左右されること。
エンタメとして求められる平均的な普遍性を欠いていることが本作の大きな欠点であり、それゆえに視聴者を選ぶ作品でもあります。
本作はメタファーにはじまりメタファーで敗れた感が強い作品ですけど、メタファー演出の大成功例を挙げますと『君に名は。』です。
『君に名は。』の興行成績が示しているように、メタファー作品はけっして難解なものではなく、それを理解させる演出と、その努力を怠った演出の差がついたとも言えます。
本作の演出の減点は「物語」で評価します。
キャラ、作画、音楽関係ですけど、動画工房作品ですのでヒロインのアイラ他登場する女の子は可愛くデザインされており、作画も全般的に丁寧でありOP、ED曲も本作に合わせたどこか切なさを感じさせる曲で作品にマッチしています。
アイラが死ぬのは観覧車で、OPの観覧車はまさしく伏線そのものです。
最後に蛇足ですけど、今年(2016年)本作と似たコンセプトでアンドロイドとヒューマンの感動ストーリー『planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜』が放送されました。
この作品ではメタファーは必要最小限しか用いられず、声優さんの演技力とキャラ設定でダイレクトに視聴者に訴えるアニメ王道の演出であり、尺が短いのもありますけど、多数の方々が高評価をしているのは、感動ポイントが分かりやすかったことにあると思います。{/netabare}