ブリキ男 さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
ドミネータ・テクノロジー
シビュラと呼ばれる謎の巨大コンピュータシステムの管理の下で、憤り、抗う人々の姿を描いた近未来クライムサスペンスの傑作です。
シビュラの判断により※1潜在犯と認定された社会不適合者達が※2執行官として警察機構に組み込まれ、監視官と呼ばれる上司達の下で、不審や葛藤を抱えながらも、同様にシビュラによる判定で犯罪者、潜在犯とされた者達に立ち向かって行きます。
SFとしての魅力を充分に備える一方で、分析、推理、アクションという刑事物における必須要素を高いレベルで調和させている作品だと思います。
科学設定のしっかりなされていないSF(サイエンス・ファンタジーと読む事もある。)では正体不明のコズミックパワーとかスーパーコイルとかで未来のテクノロジーの正体を強引に説明しようとする傾向がありますが、本作サイコパスではその様な荒唐無稽な表現が無く、メモリースクープやホログラム、ドローンなど、目新しさや派手さが無く、一見地味に見えるものの、非常に合理的な説明がなされた未来的ガジェットのみが登場し、SF(サイエンスフィクション)としての義務を手堅く守っている印象があります。この点についてはそれら中でも取り分け視聴者の目を引き、本作におけるSF的舞台装置の最たるものとして挙げられるであろうドミネーターも例外でなく、本編中では詳細な説明が省かれていますが、この銃は高エネルギー※3電磁投射機であるという設定が存在している様です。
多くの実写映画やアニメ作品に見られる、説明困難な部分をうっちゃって、想像の余地さえ許さない似非科学テクノロジーで全てを説明しようとする試みは、程度の低い思考停止思考と言っても言い過ぎではなく、そういった作品が跳梁跋扈する中で、本作サイコパスの様に実直に科学と向き合っている作品は貴重であり賞賛に値します。
上記の科学設定に加えて、知的な魅力に溢れた登場人物が多いのも、この作品の色彩を際立たせる為に重要な役割を果たしていると言えます。私は主要人物のほぼ全員に高い知性を感じますが、狡噛、征陸のとっつぁん、槙島、雑賀先生の4人は特に頭脳明晰で、立ち居振る舞いも洗練されていて、とてもカッコ良く目に映りました。
以上科学設定などに内容を絞って記事を書かせて頂きましたが、物語についてのレビューも新編集版の方に有りますので、そちらもあわせてお読み頂けると嬉しいです。
※1:シビュラにより、将来的に犯罪者になる確率が高いと判断された人々。
※2:執行官を管理する監視官に対して、執行官は監視官の手足となって危険な任務に当たる。
※3:指向性の高いマイクロ波放射で射撃対象の内部に熱を生じさせる、電子レンジ・ガンの様なもの。グレゴリィ・ベンフォードのSF小説「大いなる天上の河」以後のシリーズでも度々登場する電磁放射とほぼ同じテクノロジーを利用していると思われます。こちらの小説では反物質入りの磁気トラップカートリッジが電力源になっていましたが、ドミネーターの電力源は不明。ドミネーターの本気とされるデコンポーザーは分子分解銃と言っても良いレベルの破壊力(エネルギー量)なので、それに見合った膨大量の電力が必要と思われます。
乱闘時にも使用される可能性が有るであろう、ドミネーターの可動部分がやけに多い(アーサー・C・クラーク先生が眉をひそめそうな)点については、とても実用性重視の造りに見えませんでしたが、見た目のカッコ良さ、インパクトは絶大でした。
余談ではありますが、研究段階ではあるものの、現代においてもドミネーターと同じ原理を用いた射程距離の短いパラライザーまでは試作されているそうです。