ブリキ男 さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
シビュラの描く灰色のモザイク画
犯罪は怖いものです。自分が被害者となる場合は言うまでもありませんが、時に自分が良かれと思って行動した場合でも、法の目から見てそれが犯罪であり、意図せず加害者となってしまったり、社会不適合者の烙印を押されてしまったりする事もあるからです。でも本当に怖いのはその決定を司る法律なのかも知れません。
本作サイコパスではシビュラと呼ばれる暴力的とも言える絶対の判断基準があり、これによって人は認識され裁かれます。
現代の脳医学の分野では、人間の脳の形体及び働きは肉体の他の部分と同様に、遺伝によって形作られ、その人物の思考パターン、パーソナリティにも少なからぬ影響を与えていると言われています。その意味では古来から存在する人相学や骨相学と言うのも無根拠という訳では無い様です。
踏まえ、人類が長い時を掛けて築き上げてきた法とそれの規範となる倫理観、淘汰圧により遺伝的に運命(さだ)められた利他的精神が、シビュラ如き思い付きのガラクタおもちゃに支配される筈は無いと思いつつ本作を視聴させて頂きました。私にとってシビュラの判断はどれも恣意的で唐突過ぎて、全編を渡って受け入れがたいものがありました。
一つ一つのドットの色は違えども、遠目で見た時に限って灰色の何かが見えてきます。一枚の絵が見出される様に。その絵は目を見張るほどに美しいものでしょうか? あるいは怖気が走る程に醜いものでしょうか? シビュラを形作るドットで描かれたモザイク画は、常守監視官の言う様な人類の祈りで作られた崇高な精神とはかけ離れた、卑小で見所の無い、無謀な実験の末に生まれた産業廃棄物の様に見えるのです。シビュラはそれを作り上げた者たちの願いとは裏腹に平凡でつまらないものだと私には思われました。シビュラの謳う最大多数の最大幸福とは、幸福の定義すら曖昧な灰色のシビュラが発明した虚構に満ちた張りぼてに過ぎず、作中ではシビュラの恩寵とされる「成しうる者が為すべきを為す。」と言う言葉も、頭に「シビュラが決めた」という語が付く事によって真逆の意味になり得ます。{netabare}少なくともシビュラは狡噛や征陸のとっつぁんの様なイイ人たちを潜在犯と決めつけてしまう程にはつまらないものなのです。私はシビュラが大嫌いです。それだけに、本作の主人公の一人である常守監視官の、シビュラの独断に嫌悪しつつもそれを発展途上のシステムとして一部容認し、共生の道を選ぶかの様な生ぬるい見識しか持てなかった※1体たらくぶりは残念でなりませんでした。利用するつもりで利用されている。結局この人はシビュラに気に入られただけの人なのではないかと思えてしまいます。{/netabare}
凡人の私は大抵の人がそうする様に、暴力や耽美主義を肯定しませんが、一方で、途方も無い鮮やかさと神々しいまでの光を放ち、巨大な敵である灰色のシビュラに真っ向から対峙する、槙島聖護という人類の権化の如きダークヒーローの存在を、現れるべくして現れた英雄、この物語の真の主人公と思わずにはいられないのでした。
OPムービーは前期後期共に、前期エンディングは最高評価を与えたいです。
※1:常守監視官が猟銃を撃つシーンでも彼女の思慮の無さが顕著に表れていた様に思います。当たり前の事ですが、長い銃身(しかもダブルバレル)を持つライフルを片手で扱ってはいけないのです。ぐらついた照準では10メートル先の対象も絶対に狙えません。当てる気も無いのに拾って撃って威嚇する、(非常に危ない)そんな点も私が常守朱というキャラに対するシビュラの傀儡(かいらい)という印象を強める原因になってるのかも知れません。
※新編集版では槙島を始め、六合塚さんとカガリ君、佐々山にも焦点が当てられており、見て良かったと思える内容でした。六合塚さんの話は内容的には素晴らしいのですが、口調が優しすぎてゆっくり過ぎて途中で眠くなってしまいました。必見とする程の内容とは言えないかも知れませんが、再視聴する機会があれば、是非こちらをお勧めします。