けみかけ さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
全アニメ、全実写を問わず青春映画のお手本としてこれからも君臨するであろう冷めた時代へのアンチとなる熱い1本
2015年春期のテレビシリーズ放送から1年が経過した京アニの青春ドラマ
高校吹奏楽部の奮闘を描く『響け!ユーフォニアム』の全13話を再構成、新規カットの多数追加、アフレコの再録、音響の5.1ch化を兼ねて103分の劇場版とした作品です
京都府立北宇治高校に入学したユーフォニアム経験者の黄前久美子は、かつては強豪とされていた北宇治の吹奏楽部がすっかり落ちぶれていた事や中学で全国大会への壁を目の当たりしていたことですっかり吹奏楽に対する情熱も冷めていた
だが、クラスメイトの誘いを断り切れず吹奏楽部への入部を決める
そこでは中学時代、気まずい仲になっていたプライドが高くて吹奏楽に対しても真摯なトランペット奏者、高坂麗奈にも再会をした
はじめは緩い雰囲気に思えた吹奏楽部の活動だったが、新たに北宇治吹奏楽部の顧問として赴任してきた滝昇の登場で空気は一変する
滝は優しい言葉を掛けながらも厳しい指示で部員たちを突き放し、北宇治吹奏楽部の目標を全国大会への出場と決めさせる
滝の術中に徐々に嵌っていった部員たちは努力の末、その成果を演奏の上達という形で手にし始めていく
しかし全国大会出場への第一歩である京都府大会の出場メンバーを決めるオーディションをきっかけに部内には軋轢が生じ始めていた・・・
努力、友情、恋愛、苦悩、、、まさに青春の全てが詰まった一作と言えます
コレ以上に直球で爽やかな青春ドラマを短い時間の中でもゆったりと、ここまで丁寧に描いたアニメがかつてあったでしょうか
さらには実写を含めた全ての青春ドラマと比べても遜色ない完成度
まさに歴史に刻まれる一本になっていると感じます
追加された新規カットでやはり目に付くのは演奏シークエンスです
第5話に相当するサンフェスでの「ライディーン」のマーチング
そして第13話に相当する府大会の自由曲「三日月の舞」
これらはテレビシリーズにおいて各話のドラマにこそ山場があったため、触り程度にしか描かれていなかったのですが、今作の目玉ともいうべき位置に再編してたっぷりと劇場の音響で堪能できるよう長尺に改められておりました
ライディーンはフルパートになっていてカラーガードが舞うカットもありましたね
三日月の舞は曲の中から映像化にあたって抽出するパートを、そもそも【山田尚子のミスで間違えてた】そうなので(笑)この際に改めてリテイク出来て救われたとのことw
つまり演奏シークエンスに関しては文字通り【完全版】と誇れる内容なのでしょう
それと、どうも第2期への伏線らしいですが初めてセリフが付いたキャラもいましたね・・・
劇場の大きなスクリーンになったことで感じたのですが、画面の細部まで丁寧に作画されていた事や、撮影効果による鮮やかな明暗、光り輝く金管楽器の光沢などが大スクリーンで映し出されても全く劣化することが無いことには驚きが隠せません
京アニの画面クオリティが通常の劇場アニメにも匹敵することを物語っています
一方で大幅にカットされた内容もあります
この作品の魅力の一つは64人にも至る吹奏楽部員による各々の青春、つまりは群像劇的要素にあります
ですが劇場版では麗奈に感化されて逞しく成長していく久美子、或いは久美子に支えられた事で孤立から抜け出す麗奈
この2人の間柄に焦点を絞ってることもあって、オーディション前後での部員たちの悲喜交々のエピソードが極力オミットされています
特に‟敗者”の代表格ともいえる中川夏紀は触れてもらえていません
この点、リアリティある群像劇的要素に惹かれてテレビシリーズを観ていたオイラとしては少し残念でした
京アニの映画、と言えば総集編だろうがなんだろうがアフレコは新録、がお約束
今回オイラにもハッキリと分かった違いは第12話に相当する久美子の「上手くなりっ!」が12話ではだいぶ強調された‟絶叫”だったのに対し、今作ではより自然で根っこから悔しがって声を押し殺しているような‟嗚咽”に変わっていた事ですね
抑揚を抑えながらも心に訴えかけるような黒沢ともよの演技は必聴です
エンドロールでは今作初出しとなる「DREAM SOLISTER」のオーケストラアレンジ(ウインドオーケストラ?)をTRUEが力強いボーカルで歌い上げます
(個人的には「トゥッティ!」というエンディング曲があまり好きでなく;最後を飾るのが「DREAM SOLISTER」でホッとしてましたw)
曲が終わるころには目頭が熱くなっていましたねぇ
昨今のアニメでは省エネな態度で青春をぼんやり過ごすキャラも頻繁に描かれたりしますが、冷めた態度の久美子が麗奈に触発されて熱くなっていく様はそんな時代へのアンチテーゼともいえます
全ての時代で全ての世代にオススメ出来る、そんな青春映画が今作です