sekimayori さんの感想・評価
4.1
物語 : 3.0
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
やっぱり、声
落語と愛憎の人間ドラマ、老獪な噺家の半生と半身を語る追憶編。
原作はずっと前に1巻だけ読んでましたが、この作品はアニメで観てよかった、と心から思う。
主に、きっと大多数の人と同じく、声に魅せられたという意味で。
{netabare}
顔立ちに人生が刻まれる、とか、目は口ほどに(これはちょっと違うか?)、などと同じく、声にも人間が出るよ、と言われたことがあります。
どういう声を使って生きてきたか、今どんな声を発すべき立場か、意識的・無意識的にコントロールされる声には、人格の一端が表出するようで。
この物語は、落語界隈という舞台背景を除けば、おそらくオーソドックスなメロドラマです(私の実体験、読書体験が乏しいので、おそらく、との留保付きで)。
展開面では大仰にタメを作ることなく淡々と時が過ぎてゆくし、人物描写も多くは語らず佇まいで見せるタイプ。
にもかかわらず、「声」がキャラクターに人物に彫りの深さを与え、ドラマとしての圧倒的な厚みを与えている。
特に印象的だったのは、やはり主演の三人でしょう。
菊比古役の石田さんは凄まじかった。
人生に裏打ちされる落語、落語に裏打ちされる人生、その円環を、見事に青年期から壮年期へと転がし続けて見せてくれました。
鹿芝居(こう書くのね)や艶話での香り立つような色香、『死神』での総毛だつ暗い湿度と、落語シーンでの表現力も圧巻。
一方、物語を通して天才肌の快活な演技を貫いた助六役、山寺さん。
その圧倒的な存在感は菊比古の愛憎に説得力を与え、一方で終盤での脆さと懺悔にもハッとさせられました。
そんな二人が小夏の前で演じた『野ざらし』、幸せだったなぁ。
菊比古の『死神』、助六の『芝浜』、師匠の『子別れ』もすごくよかったんだけど、私は(アニメと落語の幸せな出会いとしても)あの11話の感情に溢れる掛け合いを推したい。
助六の印象が強すぎて、与太郎(関さん)が八雲の相手方として力不足になるんじゃ、という疑念は少し……
そしてみよ吉、林原さん。
時代に捨てられ、男に棄てられ、依って立つ自分すら見失ってしまった女性の愛情と悲哀の深さが、一声一声から伝わってくる。
どうしてあんな演技ができてしまうのか、恐ろしさすら感じます。
メンヘラビッチ乙www、では済まされない、怪異に類する美しさを表現していた。
落語も古典・伝統芸能も全く分からないけど、「そういえば娘道成寺もあんな情念を描いてたな」、と、古来より日本で描かれてきた女性像にもっと触れてみたくなったり。
{/netabare}
声優陣の演技ばかり語ってしまったけれど、力負けせずそれを支え、時にはより雄弁に一瞬を美しく飾り上げた作画や演出にも目を見張るものがありました。
でも、その粋を私の貧弱な知識と語彙で語ることは野暮ってェもんでしょう。
「八雲」と「助六」の物語はまだ第二幕。
名跡の上でも関係性の上でも、与太郎が九代目八雲となるか、三代目助六となるか。
“やくもき”しつつ、二期を待ちます。
おあとがよろしいようで。
ようで!(ゴリ押し)